ネタ帳vol.3

2023ネタ帳63:鷹丸の妹を青オケに入れたかっただけ

01/14 17:29 


例えばである。私には色んなものが欠如している。それは世間一般的にいる親という存在からはじめ、さまざまなものだ。欠如したものを埋めるように代わりのようなものは存在し、その一つにピアノというものがあった。押せばなるぽーん、という音。その音色に私は捉えられたまま2回目の人生を歩んでいた。
私がその記憶をいつ思い出したかと言えば、母親が兄を殴った頃である。倒れた兄をおいて母親は出ていき、私は小さな手で兄を何度もゆすった。小さな手で出来ることなど限られていたのだ。奥からは弟がなく声がするが、私にはどうすることもできかねたのだ。小さな手で何度も兄を揺すり、目を醒ました兄の第一声は「……えっ?」だったのを私はずっと覚えている。


兄や兄の友人から散々日本で過ごす注意点を言われる。短期留学的なもので、普段はイギリスで暮らしている私は見かけたその募集にすぐさま手を挙げたのだ。海幕高校となればもう随分と薄れた記憶の中にある漫画の舞台ではなかっただろうか。少しの不安とワクワクとした気持ち。鼻歌を歌っていれば、万年2位の熊ちゃんこと熊谷くんが眉間に皺をよせて私を見下ろしたが。
「なんで千葉なんだ!普通は東京だろう」
そうぽこぽこと怒っている彼の通う高校は東京で有名な音楽科のある高校である。目の前にあるパンケーキをから目を離し私は彼を見上げた。
「ごめんごめん、熊ちゃんの夢を壊しちゃったかぁ」
「はぁ!?」
「私と一緒に高校通いたかったんでしょ?」
そう悪戯っぽく笑えば、彼はパクパクと口を動かして誰が!と声を荒げた。周りのお客さんの目がこちらに向いたので彼は大人しく席座ったが。彼ははぁとため息をついて頬杖をつく。
「よくお兄さんが許したな」
「ずっと葛藤はしてたんだけど、リサ姉が芸大で教鞭とるから一緒に住むって言ってくれたのは大きいよ。まぁ散々注意事項言われたけどね」
「心配なんだろう」
「それはわかってる」
私はパンケーキを口に運ぶ。この熊谷という人物も熊谷くんの両親も非常にできた人である。兄がよくわかっていないまま私のコンクールを見にきた時もマナーなどを教えた人だ。まぁ当時の兄はまだ高校生の上がりたてで給料もすくなくほとんど私たちの教育費に消えていた頃である。服装も綺麗なものではなかったのだ。周りが忌避する中親切な人である。
「海幕高校ってオーケストラ部あるって聞いたんだけど」
「ある。おいまさか入る気か?」
「見るだけだよ見るだけ」
「あのな、よくお前や俺はオーケストラと共演するが、本来ならオーケストラにはピアノの席はないんだぞ」
向けられたフォークに私はぴしりとかたまる。まじ?と英語で聞けば、まじ、と同じく英語で頷かれた。
「うっそーー」
「だから東京の高校に来いと」
呆れ気味に告げた熊ちゃんはしょげた私をみてパンケーキに乗ったイチゴを私の皿にうつす。この人物の優しさである。

そんなこんな、私の計画は最初から狂いはしたがオーケストラの生演奏を聞いて吹っ飛んだ。綺麗な音だ。ワクワクするような音なのだ。帰ってもいまだに興奮している私はそのままピアノを引けば芸大の教員をしているリサ姉はケラケラ笑ったが。高校生は人生一度きりよ、とウィンクしてみせた彼女に私は目を瞬く。それはそうだ。
と、いうことで体験入部にやってきたわけであるが。主人公達がいることに気づいてしまった私は、である。いや仕方ないと思いたい。演奏聞きたいじゃん。すすす、とバイオリンに近づく。流石に初心者の枠に入ったけど。聞こえてきたのは技巧が上手い音である。ほほう、流石と思いながらそれに聞き入った。二人とも綺麗な音ではあるのだが溶け合わずに喧嘩しているようである。私と熊くんはこういう感じにはならない。まぁ熊くんが私に合わせてくれているのが大きいが。終わったあと小さく拍手をし、秋音ちゃんのバイオリンにも拍手しておく。いやバイオリン弾けるだけですごいのだ。主人公になんで拍手してんだコイツみたいな顔をされたが。私はへらりと兄のように笑っておいた。
「初心者にはバイオリン弾けるだけで凄いんだよ。もう君とかその隣の子とかは意味わからないレベルだよね!」
そうコソッといえば、「はぁ?」と言われたが。同い年くらいが集まるオーケストラなんて珍しい。まぁ私はピアノなのでバイオリンを弾いている時間などないので今日、少しだけバイオリンを触って終わりだ。
「いいなぁ、部活」
そう言って聞こえてくる喧騒に部活の音に耳を澄ます。これぞ日本の放課後である。こういう気分がいい日はピアノを弾きたくなるのだ。浮かんだメロディを鼻歌で歌いながら帰路に着く。さて、明日はどんな1日になるだろうか。

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「オーケストラ部に入らないの?」
「うーーん、楽器の掛け持ちはちょっと」
と、山田くんに答える。同じクラスの彼は私が体験入部に行ったことを見ていたらしい。彼は目をパチパチと瞬いて私を見ろす。
「掛け持ち?」
「家でピアノしてるから、これ以上は流石にキャパオーバー。けどオーケストラにはとても興味がある」
ピアノないんだもんなぁと言いながら私は項垂れるように教科書を閉じた。
「山田くんはチェロ?」
「よくわかったなー」
「楽器はよく見るからなぁ。いいなぁ、こう、分厚い感じがいいよね」
そう言いながらチェロの音に思いを馳せる。綺麗な音だ。分厚い、重低音の。でも、コントラバスよりは太くはない。ピアノとは当たり前だが違う音だ。
「ピアノ協奏曲するときは呼んでほしい」
「俺にその権力はないかなぁ」
「いやでもほら、ゴーシュが練習する時とかあるじゃん」
「ゴーシュ?」
「山田くんのあだ名。ほら、山田くんはチェロ引いてるから。セロ弾きのゴーシュ、知らない?」
そう尋ねれば彼はまた目をパチパチ瞬いてから、知ってる知ってるとケラケラと笑ったのだが。やはり日本の童話は日本では通じるらしい。
「一説によればゴーシュってチェロの音の擬音らしいからピッタリだし」
「俺以外にもチェロ引く人いるっしょ」
「山田くんが同い年で初めてあったチェリストだから山田くんがゴーシュ」
そうケラケラ笑いながら勉強道具をカバンに詰める。そろそろ帰らないと今日はリサ姉がレッスンしてくれる日なのだ。
「じゃ!ゴーシュ、私に代わって部活で青春したまえ!」
また明日、とひらりと手を振れば振替してくれる彼はいい人である。鼻歌混じりに階段を駆け降りて、帰路に着いた。

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「伴奏はまかせろ!」
音楽の時間である。ピアノの前に陣取ってグッドサインを出せば、ゴーシュが笑った。グループ発表的なやつである。組になって軽くアンサンブルしましょうと言われたのでとりあえずゴーシュの首根っこを掴んだわけである。
「苗字ちゃんやる気満々じゃん」
「オーケストラ部には入れなかったからアンサンブルやりたい」
そう言ったところで、確か夏が明けたら定期演奏会があると聞いていたのを思い出す。
「何人グループだっけ?デュオでもいいけど。あんまり難しい曲しない方がいいんだよね」
「それが助かるかなぁ」


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「しくった!!」
やっちまったぜ。そうやれやれと息を吐く。いや、まさかほらリサ姉が帰ってくるのが遅い日に限って家に鍵を忘れるとは思ってないじゃん。今日は全体的についてない日だなぁと思う。今日に限ってピアノを弾きたいデーなのだ。しかしながら、音楽室はオケ部が使っていると思われる。ええい、先生に直談判よ、と思いながら音楽の先生の元へ向かった。
「先生ー、鍵忘れたのでピアノ貸してください」
そう言えば眉間に皺を寄せてる鮎川先生は私をみたが。顔がいい。
「家に鍵閉じ込めちゃって。ピアノ弾かさせて欲しいです」







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