私のヒーローはいない
タミヤ。私のヒーロー。私の友達。私の仲間。付き合いは昔から。だから、ずっと一緒だと思っていた、し、それはタミヤもそうだったらしい。転校だって、北海道と沖縄じゃないんだから会えると言っていたのに。実際はあそこを酷く嫌った両親のせいで会えなくて。
鼻をつくような腐臭。水に浮かび上がったもの。沈んでいるもの。それを理解したくなかった。いや、理解できなかった。その光景は酷く夢と酷似していたからだ。
新聞の一面。飾られた名前。信じたくなかった。私は知っていたはずなのに。とめられたはずなのに。なによりも、ずっと一緒だと信じていたのに。だから、信じたくなかった。
鳴り響いた電話。遅れて届いた手紙。解けた魔法。私はゼラのかけた魔法にも似たそれから解放された。でも、新しい魔法をかけられたのだ。それは酷くもの悲しく、縛り付けるゼラのそれよりも魔法だった。まるで映画のワンシーンのようだった。ハッピーエンドの物語では決してない。
――零が安心して帰って来れるように、あの日に戻してみせるから。俺たちの光クラブに戻してみせるから。だから、零はそれまで帰ってくるな。
――俺は、零のことが――
「ヌル」
そう呼ばれて、ハッとする。ごめん、ぼうっとしてた、と笑えばヒルは私の髪をすいた。その仕草は、あの廃墟の帝王に酷く似ている気がする。彼はよくジャイボに向かってそうしたし、私に向かってもそうした。そんなことが起こった日は酷く幼馴染みの機嫌が悪くなるのだ。あと、ジャイボの期限も。
スッと近づいたヒルの顔を手で止める。
「ダメ」
そう言えばあからさまに不機嫌な顔をしたヒルに、やっちゃったか、と思う。振りかざされた手に目を瞑る。
私は彼のものではない。懐に入れる気などない。でも、「僕」は帝王によく似た彼を簡単に懐に入れてしまったのだろう。「僕」は酷くさみしがり屋だから。
響いた乾いた音に、じんじんとする頬の痛み。それに、すこし笑う。
私のヒーローは、もういないのだ。どんなに焦がれたって、助けを求めたって、くることはないのだ。残酷な呪文を、涙でゆがんだ呪文を残して、消えてしまったのだ。
――俺はお前がずっと好きだった。今も。これだけはどうしても伝えときたくて。
「私」のヒーローはもういないのだ。どんなに酷い目に遭ったって、助けてくれる手も、差し伸べられる手もない。
ちらり、と脳内に浮かんだ人物に、「ちがうよ」と小さくつぶやいた。あの人は違う子のヒーローになるべきだ。「私」のではない。
「いたいじゃないか、ヒル」
僕はそう言ってヒルを睨んだ。不服そうにすれば、ヒルも眉間にしわを寄せる。そのしわをほぐすように人差し指をヒルの眉間に当てた。密着するようにもたれかかって、顔を寄せる。
「何でもするから許してよ」
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