過去への沈没前夜



 ここは、似ているようで違う。だって、みんないないのだから。それは「僕」もわかっている。わかっているのだ。でも、似ているそこは居心地がよかった。みんながいるような気がして。ひとりでなくなった気がして。

「僕はね、光明」

  あの悪趣味な洗脳の部屋から洗脳される前に光明に連れ出して自分の部屋に匿った。鍵を閉めて、トタン板で塞ぐ。どうやらまた道筋通りになったらしい。でも、それは「私」の読み通りだった。今ならまだ変えられるのである。そう、変えられるのだ、未来を。

「同じようなこと、知ってるんだ」
「……同じようなこと?」
「数年前、まぁ、マヨネーズ事件より後、なんだけど。知らない? 螢光町の廃墟で学生達の死体がたくさん発見された事件」
「もしかして、廃工場の、?」
「そう、それ。僕はそれを止められたはずだった」

 そう言って目を伏せる。どうすればよかったんだろう。どう行動を起こせばよかったんだろう。今でもそんなことが頭から離れない。ぐるぐると、僕はあの日で立ち止まっているのだ。

「みんな、小学生の頃の、友達だったんだ。光クラブだなんて、内輪の名前もつけてさ。僕もそのクラブの一員で。両親が『引っ越し』っていう形で僕をそのクラブから引き離したんだ。僕は知ってた、彼らがああなるって。でも、できなかった。ただの夢だと思ってたから。幼馴染だった。大切な。死んでほしくなかった。止める方法なんて何千通りもあったはずなのに」
「どうして知ってたの?」
「なんと言えばいいか、わからないけど。僕はわかるんだ。美美子も言ってただろう? 僕は勘がいいって。一つ言っておくと、今回の選挙で東郷さん達は負けるよ」

 あっけらかんと言い放てば、光明は目を見開く。さて、コレをつつかれてもやっかいなのである。ならば、話を変えるべきだ。

「僕が、どうしてここにいるかわかる?」
「洗脳されたからじゃ」
「そんなの、されてないよ。ああ、でも、されてるのか。みんなが見えてしまし、居心地がよく感じるし――なにより、『私』が息を潜めてしまってるから。でも、光明、私はね、ちがうんだ。私は未来を変えたいんだ。夢と同じ世界が広がってるって否定したいんだよ」

 そこで言葉を途切れさす。ロープを取り出せば、光明くんは少し下がる。違うよ、光明くんを縛るためじゃない。そっと目を閉じる。

「私はヒルが好きなわけじゃないよ」
「え?」
「――私はね、大鷹くんが好きなんだ」

 私はそう言って笑う。笑えているかはわからなかった。光明くんが目を見開くのが見える。

「――でも、きっとそれは死んでしまった幼馴染に似ているからなんだよ。私は今でも幼馴染に縛られてるんだ。時間が止まってしまった彼らに。笑ってしまうでしょう? だから、弾って呼ぶように促す彼を大鷹くんって呼ぶんだよ。彼、そういうことには鋭いようで鈍いから、気づいてないでしょ」

 カーテンを開ける。外は暗闇だ。でも、月明かりが綺麗だった。

「つらくなかったの?」
「さぁ、どうだろう。結局、私は突き放して欲しかっただけなのかもしれない。お前のそれは重ねてるだけだって、怒ってもらえるのを期待したのかも。私は三人の行く末も知ってる。でも、私がいることで変わるかもしれない。いや、それはないのか。キッと期待したって無駄だ。でも、変えてみせる。それが、僕への慰めになる。行動を起こせていれば、変えられたはずなんだっていう」

  窓を開ける。下を見れば、後輩のルルカ達がいる。先にこっそりと頼んでおいてよかったと思う。ロープを下に投げて、近くに結ぶ。

「――これが、変わること。私はこのタイミングを待ってた。君を洗脳させやしない。未来は変えれたんだって、私は「僕」に証明しなきゃならない」
「零ちゃん、」
「はやくいって、光明くん」

 そう言って彼を逃す。彼はロープを握りしめて窓に向かった。

「零ちゃんは行かないの?」
「尻拭いしなきゃ。私にはもうヒーローはいないんだよ」

 そう言って帽子を深くかぶる。光明くんが逃げたのを見て、ロープを切った。また窓を閉めて、外を見る。ガラスに映るのは「僕」だ。ダンダンと扉を叩く音がして、遂には扉が無理矢理開けられた。

「ヌル、なんの真似だ!」
「一人になりたかっただけだよ。かまわないで」

 そう言ってみるけども、私が光明くんを逃がしたことなんて彼はとっくに知っているんだろう。ヒルは手を振り上げる。乾いた音。そして、私の手を掴んだ。

「洗脳部屋行きだ!」

 なんだ、処刑はしてくれないのか。
 そうあっけらかんと笑う。ずるずると僕は引きづられる。鏡を見れば、心配そうにみんながこちらを見た。




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