道化師は笑う



「今日は、ひどいこと、たくさんされちゃった」

 そう言って鏡を見る。そこにいるジャイボが、ゆるく口角をあげて僕を見る。ヒルの僕へ対する行動はエスカレートしていた。だから、酷いことも当然のようにされるようになってしまった。殴るなんてまだヌルい。ヒルの気にくわない行動をとると、もっと、ひどいことをされる。昨日もヒルの前で『みんな』と話していれば、ひどいことをされた。最近、ヒルはイライラしている気がする。

「ひどいこと……されちゃった……たくさん……」

 ズルズルと、座る。ジャイボが「きゃは、かわいそう」と笑い声を上げて鏡の奥へ消えていく。着崩れた服をなおす体力もない。でも、今更帰る場所なんて僕にはない。僕にはみんなしかいない。ココ、には、みんながいる。みんなが。酷いことをされるけども。それでも、ひとりぼっちになってしまうより、ずいぶんとマシだった。

「ヌル、行くぞ! 何のためにお前を海帝に無理やり入れたと思ってるんだ!」

 乱暴にドアが叩かれて、はいってきたのはノノだった。僕はノノを見る。ノノは一瞬息を詰めさせて、僕を見た。

「お前、それ、」
「・・・・・・今行くよ、ノノ。少しだけ待っていて」
「あ、あぁ、」

  外に出たノノに、きちんと制服を着る。帽子を被って、出来上がり。鞄を持って、鏡を見た。

「いってきます」

  ジャイボに変わるように出てきたカネダが「いってらっしゃい」と小さく手を振った。その隣からダフがのぞき込んで手を振るのを見てから、部屋を出る。待っていたノノと歩き出せば、ヒルも来た。鋭い目でこちらを見たヒルに笑う。ノノが私とヒルを見比べた。

「ヒル、お前、」
「どうしたんだ?」
「……いや」

 ノノがそっと僕の前に立つ。ノノを見上げれば、ノノはこちらを向くことなくヒルと話し始めた。






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