過去を生きる少年の追憶



 そのままタミヤとてをつないで家に帰る。話題は自然と違う話題に移っていった。家に着くと、玄関の扉の外にいた両親は僕を抱きしめた。普段はそんなことしないくせに、僕をひとりにするくせに、相変わらず変な二人だ。「僕」を必要としていないくせに、抱きしめるなんて。
 泣いている二人に、タミヤを見る。タミヤがまた少し表情を陰らせた。さっき、やっと笑ってくれたというのに。

「ねぇ、お父さん、お母さん、僕はダイジョウブだよ、タミヤがいるし」

 その言葉に、両親は息を飲んだのがわかる。泣いていた父親が顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃになった顔で怒鳴る。

「何をいっているんだ! タミヤくんはあの事件で死んだだろう!」
「お父さんこそ、何言って――タミヤはそこに――」

 そう振り返る。タミヤは目を伏せて、少し考えた後、首を振る。そして、真っ直ぐな目で僕を見た。

「俺はタミヤじゃない。だましてゴメンな」
「冗談やめてよ、」
「零の前で、タミヤのフリをすれば零の洗脳が解けるんじゃないかって思ってたんだ。でも・・・・・・――俺は『タミヤ』じゃない」

 そう言った彼に、目を見開く。彼はタミヤじゃない。なら、誰なんだ。僕は必死に考える。知っているはずだって、頭の中で「私」がいう。でも、僕は信じられなくて首を小さく左右に振った。

「嘘だ」
「嘘じゃない。俺は俺なんだ。・・・・・・死んだ人間は帰ってこない! 俺はタミヤじゃない! それは、お前が重ねてるだけだなんだ! 俺が、俺が巻き込んじまったから……! あの時、止めていたら……!」

  頭がグチャグチャする。掻き回されるような、不快感がする。彼が悔しそうな、悲しそうな、そんなぐちゃぐちゃになった表情で僕を見た。そして、 彼は両親に頭を下げる。

「すいません! 零がこんなになったのは、俺のせいです!!」

  僕は両親を見る。彼はどうしてこうなったのかを説明する。彼の言葉はよくわからなかった。両親は、ただ真っ直ぐに、彼を見た。そこに嫌悪を含ませて。冷たさも含ませて。

「うちの娘に、もう近づかないでくれ!」

  母親が僕を連れて、家の中に入る。父親が未だに頭を下げる彼を無視して、扉を閉めた。

「あ、」

 そう手を伸ばしても、扉は閉まる。彼が最後に僕の名前を呼んだのが聞こえた。いや、それはきっと「僕」の名前じゃない。きっと、「あの子」の名前だ。

 ――僕は、この光景を、知ってる。そして、恐らくは「あの子」も知っているんだろう。
 こうなったら最後、僕の手は彼に届くことがないのだ。会えなくなってしまった、あの日のように。「僕」は彼の名前を知らないまま、「あの子」は彼の名を紡ぐことがないまま、もう二度と。





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