遠い遠い昔、まだ世界が二人に優しかった頃
僕の家族はおじいちゃんとおばあちゃんだ。お父さんとお母さんは滅多に僕の家には訪れない。偶にこそこそと深夜に帰ってきては、僕に「大事だよ」とか「絶対に迎えに来るからね」とかそういう言葉を吐いてはどこかへ帰って行く。おじいちゃんとおばあちゃんはそんな様子を悲しそうに見ているのだ。
僕は知ってる。あの二人にはそれぞれ『別』の家族がいるのだ。そこには僕が入り込む場所なんかない。だから二人は僕をおじいちゃんとおばあちゃんに預けて帰っていくのである。僕をいろんな言葉で縛り付けて。
「なぁ、零ってオトコなんだよな?」
そう僕を見下ろしたタミヤに僕はなんと言えばいいかわからなかった。ミンミンと蝉が鳴く夏のことだ。僕はいくら暑くてもみんなと同じようにプールへ入ることができなかった。体が弱いといって祖母が休むように手配していたからである。
それは、いつもみたいにタミヤと遊びに出かけたときだった。カネダとダフはいない。たしか、二人とも田舎へ帰るとかでいなかったのだけは覚えている。
「なんでそんなこと聞くの」
そう言いながら、タミヤを見上げる。プロレスごっこ、というかじゃれついた時に僕はタミヤに押し倒される形になっていた。
「いや、螢中の奴らがお前のことかわいいよなって」
「馬鹿じゃないの」
「俺もそう思う」
そうまっすぐに返したタミヤにちょっとむっとする。そのまま股の間を蹴り上げれば、もだえたタミヤは横にずれた。あーあ、服が汚れちゃった。はたけば砂埃が舞った。タミヤはむっとしながら起き上がる。
タミヤはお隣さんだった。僕がおじいちゃんとおばあちゃんに預けられたときからなんやかんやと付き合いが長い。それは同時にカネダとダフとの付き合いが長いことも意味をする。僕のセイベツのことをタミヤのおばさんは知ってる。昔、タミヤと一緒にお風呂に入った時に、ばれてしまったからだ。おばさんは血相を変えて僕の家に行っ田のを覚えている。それもそうだろう。おじいちゃんとおばあちゃんはなだめるように悲しそうに僕がそうなってる意味を彼女に告げた。それを僕の隣でこっそりと聞いてたくせに、タミヤはまだこんなことを言うのだ。
「僕は僕だ」
「すねんなよ」
「すねてない」
「俺はどんな零でも好きだぜ」
そんなことを真顔で言うものだから、僕の顔が真っ赤になる。どうしたんだよ、と告げたタミヤは多分無意識だ。それが悔しくて、僕はベッと舌を出す。
「僕も好きだ、ばーか」
「馬鹿ってなんだよ!」
そうまたじゃれついてきたタミヤをよけて、逃げる。鬼ごっこに変わったそれに、日が暮れるまで走り回った。
その日くらいから、タミヤは僕を守ってくれるようになった。何があったのかは知らない。たぶんタミヤのおばさんがなんか言ったんだろう。理由を聞けば、タミヤはすぐに答えを告げた。
「なんか、零ちゃんを守ってあげなさいって父さんに言われた」
「まさかのおじさんだった」
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