「僕」だけが



 懐かしい夢を見たと感じるのは、また同じように車に揺られているからだ。
 あの事件――田宮達のしたいが見つかって以降、両親は『僕』を酷く嫌った。いや、僕があの事件の被害者の関係者だと知られることを恐れたんだろう。だから、あの頃の荷物なんかはタンスの奥にしまわれた。僕もショックで何日も学校を休んだ。休んで、雨に打たれて、立ち尽くして、気づいたとき、「僕」は「あの子」と変わっていた。「あの子」はいった。僕を隠してしまえば、みんなと同じ永遠になるんだと。僕はそれに従った。僕は疲れ切っていた。みんながいない日常に。みんながいなくなったという現実に。だから、「僕」は「あの子」と交代した。そして、『僕』は「私」になったのだ。「私」に両親は喜んだ。その姿に、「僕」は。 

 扉が閉まってしまったあの日、両親はすぐ引っ越しの準備を始めた。
 こんなものを持っているから! と両親はタミヤがくれた最後の手紙を燃やした。大切な、大切な宝物だった。大事にしていた学帽も、写真も、鞄も、全部全部燃やされた。父親に抱えられて、泣きじゃくりながらただ燃やされるそれを見る。声はかれて、ただ涙がこぼれた。僕は何処で間違えてしまったんだろう。いや、僕は何もしていないはずだ。僕はやはりまだ子供で、大人に翻弄されるしかないのだ。
 必死になんとか写真を隠そうとして、手元に残ったのは一枚の写真だった。光クラブの写真じゃない。僕が来ているのは女の子の制服で、そこにはもう一人の女の子と、三人の男の子がいる。それは、あの時の男の子だ。いつ撮ったんだろう。そう考えて、アァ、と理解する。

「『私』だったころの写真だ」

  揺られるトラックの中、写真を見下ろして、そう呟く。それと同時に、僕は思い出した。いや、「私」がまた現れたと言える。「僕」は必要がないのだ。両親にとって必要なのは「私」で、写真に写る彼らにとって必要なのもまた「私」だ。「僕」を必要としてくれた存在は、みんないなくなってしまった。「僕」はひとりぼっちなのだ。

「……『僕』はいない方がいいみたいだ」

 それは元から理解していた。いや、小さい頃は自分がいなくなれば良いと思っていたけれど、今は少し違う。

 ――「僕」だけがいらない子だ。






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