ひとりぼっちじゃなくなった日



  引っ越したさきは少し離れた街だった。大きな広い家。整った庭。新しい家だよ、と言った両親は業者に指示を出して荷物を運んでいた。僕は近くを見てくるだなんて言って、街の中に足を踏み出す。たくさんの人がいる。少し都心から離れた町と言っても、人口はそこそこ多いようだ。人混みに紛れて歩いていれば、不意に隣に誰かが並んだ。僕よりは小さい。子供だ。僕は彼を見下ろす。彼は僕を見上げた。

「ぜら」

 横にいた存在は見下ろす大きさのゼラだった。「どうしたんだ、ヌル」と告げた彼に、「僕は必要なのかな」と問う。ゼラは「僕らには必要だ」と答えた。

「僕ら?」
「光クラブには必要だ」
「本当に?」
「ああ、周りを見てみろ」

 その言葉に周りを見る。僕の周りには僕より背の低いみんながいて、コッチコッチと手を引いた。

「コッチコッチ」
「僕らはコッチだ」
「ほら、はやく、ヌルくん」

 手を引かれるように歩き出す。足は止まらない。なんだかあの頃に戻れたようで楽しくて、僕は足を進める。不意に、違う手が僕の手を引いた。そこにいたのは人だった。血みどろで、酷く火傷を負った。彼は僕を見た。僕は少し驚いた。まるで幽霊みたいだ。いや、幽霊なんだろう。

「――お前がいたら、変わったのかな」

 その声に僕は彼が誰かを理解する。

「僕は変えたかったよ、タミヤ」

  彼はそのまま僕の手を引いて僕の隣に並んだ。周りはみんなではなくなった。いや、みんな、なんだろう。身長は伸びてしまって、グロテスクな様になってしまったけど。でも、みんなだとわかった。僕は酷く安堵する。僕はまだみんなといられるのかと。

「僕を迎えに来たんだね」

 そう告げれば、タミヤは止まった。道の真ん中で。ああ、コレは、だなんて思いながらタミヤをみる。でも、どうあがいたって、僕はいらないのだし、もう良いかと思うのだ。

「――ああ、迎えに来た」

 そう言って、それは僕を抱きしめた。僕は目を伏せる。

「ごめんな、零。ちょっと、痛いかもしれねぇけど」
「いいんだよ、」

 周りから悲鳴が上がる。クラクションが鳴る。ブレーキの音が酷く響く。彼は僕を見て笑う。嬉しそうに、悲しそうに。彼らは笑う。うれしそうに、楽しそうに。

「――おかえり、ヌル」
「ただいま、光クラブ」

 そんな言葉とともに目を瞑る。視界が真っ赤に染まり叫び声が聞こえた。僕は朱に染まった視界の端で、タミヤを見る。ぽろり、と涙がこぼれた。

「今度は僕をおいていかないでね、タミヤ」
「ああ、安心しろよ。もう絶対に――」

 そっとタミヤに抱え上げられる。酷く安堵するそれだ。僕の視界が黒く染まる。これで、やっと、「僕」は一人ではなくなったのだ。みんなより、少しだけ年を重ねてしまったけれど。僕はみんなと同じ永遠になれたのだから。僕はうれしかったのだ。僕を必要としてくれているみんなと一緒にいられることが、ひどく。

 ――そうして、僕は念願だった「永遠」を手に入れたのだ。





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