さぁ、未来を変える引き金を引け
「いや、ね、薬物中毒者が運転する車に轢かれちゃって。入院してるんだ」
そう言って、オーダーしたメロンソーダを飲む。看護婦さんは私が大丈夫だと判断して違う席でコーヒーを飲んでた。マスターと雑談している看護婦さんはこちらを見ることはない。
「奇跡的に命は取り止めたんだけど、一部の記憶がなくなっちゃったんだよね」
あっはっはーと笑えば、四人は変な顔をした。特に大鷹くんは。
「だから、みんなに挨拶したっけ? と思って来たんだけど」
「されてないわよ! 零ちゃんったらいきなり転校しちゃうんだもの!」
「若園さんは、どのくらいの記憶がないんだ?」
「いやぁ、ぶっちゃけてある方を答えた方が早いんだよね。中学2年からと、高校2年の途中まで、飛んで今、みたいな。だから四人は覚えてるんだ」
「……そうか」
そう少し気落ちしたような表情を見せた赤場くんに肩をすくめる。
「そんな顔しないでよ。別に気にしてないし。私は昔をたどること諦めたし」
「諦めた?」
「写真とか、当時のものが家になーんにもなくて。両親が捨てちゃったんだって。だから、もう無理なんだと思う。思い出そうとしても、なーんにもないから」
何度か思い出そうと試みたことはある。でも、全く思い出せないのだ。お医者さんは無理だろうと言っていたし、無理なんだろう。大鷹くんが目を見開いて、「タミヤのこともか?」と告げる。その名は聞き覚えがあった。両親がこぼした名前だからだ。でも私には心当たりが全くない。なので、首を振る。
「全然覚えてない」
「・・・・・・そうか」
「そんな顔しないでよ。わからない過去を悔やむより、未来を見て笑った方がいいでしょ?」
「わかっていても?」
光明くんの言葉に首をかしげる。わかっていても? とは。
光明は慌てたように、あ、ごめん、と言った。ああ、なるほど、記憶にないところで私が言ったらしい。
「私が知ってたのは、大鷹くんが生徒会会長になって海帝生徒会会長派閥なくなるとか、大鷹くんが美美子ちゃんに振られるとか、そこまでだから、この先は知らないんだよね」
私の発言に、大鷹くんがピタリと固まった。古傷をえぐってしまったか。でも、我慢してほしい。
「なんとかしてあげようと動いたけど、美美子ちゃんは帝一くんとおつきあいしてるみたいだし、知ってた未来は変えれないのかもね」
そう笑って、メロンソーダを飲む。美美子ちゃんが目を瞬いて、私を見る。
「何?」
「違うわよ、零ちゃん。私、弾くんを振ったわけじゃないわ」
弾くんが先に断りを入れたのよ。
そう首を振った美美子ちゃんに、大鷹くんが目を泳がした。コツン、と赤場くんが大鷹くんを小突く。光明くんがクスクスと笑った。
「なに?」
「弾くんは取り消したの。私の婚約申し込みを。なんでだと思う?」
そう言った美美子ちゃんに、私はそのまま大鷹くんを見る。大鷹くんは、片手で顔を覆ってそっぽを向いた。珍しい。というか、あざとい。
「え、なに? 記憶ないから余計わからない気がする」
「弾くん」
美美子ちゃんの言葉に、弾くんが私を見た。そしてまた目を泳がせる。
「……俺が、好きだったのは、零だって気づいたから、取り消してもらった」
大鷹くんの言葉に、耳が赤くなる。う、え、? と変な声が出る。大鷹くんが私の手を取った。
「だから、俺と付き合ってほしいんだ、零。傷心につけ込むみたいな形になったけど」
その言葉に思考が停止下のは仕方がないと思うのだ。
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