君は君でも君ではない君


「それ、僕がやってみせようか?」

 そう言って部屋に入って来たのは海帝の制服を着た零ちゃんだ。笑みを浮かべて入ってきた零ちゃんは、いつもの雰囲気じゃない。まるで本当に男の子のようだった。私は目を瞬いて、そばにいた帝一くんや大鷹くんを見る。二人も同じように私をみた。

「それ、僕がやってみせようか? って聞いているんだ」

  私はこの零ちゃんを知ってる。転校してきた時の零ちゃんだ。ニコニコと笑って『僕』という、少年のような零ちゃんだ。遅れてきたけれど、話を聞いていたらしい零ちゃんはニコニコとわらってみせた。

「だって、君たちは同じ学校の生徒だろ? 部外者の方が入りやすいんじゃないかな?」
「零?」
「どうしたの? 大鷹くん」
「いや、零の雰囲気が全然違うから、なんか」
「そう?」

 そう首を傾げた零ちゃんに弾くんがなんともいえない顔をした。帝一くんが零ちゃんをみる。

「接触できるのか?」
「多分ね、ダメなら引き返すよ」
「おい、帝一、零は部外者なんだ。危険な目には合わせられない」
「危険な目? 大丈夫、これくらいなんともないよ。洗脳される前に引き返せばいいんだ」

 ニコニコ、ニコニコ。零ちゃんの笑みは崩れない。でも、と口籠もった弾くんに、零ちゃんが不意に弾くんに顔を近づけた。そんなこと、普段の零ちゃんならしない。いきなりの事で驚いた弾くんに、零ちゃんは小首を傾げて弾くんを見上げた。

「弾、は、僕が信じられない?」
「……いや、そんな事ないけど」

  顔を背けた弾くんに、零ちゃんはまた笑ってするりと身を引いた。

「じゃあ決まりだね! 善は急げ、行ってくるよ」

 零ちゃんはそう言ってまた扉を開けて出て行く。光明くんがその後ろ姿を見て呟いた。

「まるで別の人みたい。すごい演技だね」
「演技なのかな」

 ポツリ、と呟く。みんなの視線が私に向いた。

「昔の零ちゃんみたいだったから」

 なにも、昔の零ちゃんが嫌いな訳じゃない。でも、今となっては、私は今の零ちゃんの方が好きだった。帝一くんや弾くんは昔の零ちゃんを知らないから余計に困惑しているのだろう。心配だな、といった弾くんはそわそわとしている。そして、十分もたたないうちにやっぱり我慢ならないと扉を開けて弾くんは零ちゃんを追いかける。私たちもそれに続いた。





 廊下ではちょうど零ちゃんが東郷くん達に声をかけているところだ。ニコニコと笑って。

「僕? 僕はヌル。クラスとか、学年とか、面倒だし秘密って事で」

 そう笑ったのは本当に少年のような零ちゃんだ。どこにでも居そうな感じではある。でも、どこにでも居そうではあるのに、やけに目を引く存在だ。それは本当に昔と同じだ。
 何ができる? と尋ねた彼らに零ちゃんは「何でもできるよ」と笑った。

「何でも?」
「うん、何でも。言われたことは、なんでもするよ」

 ニコニコ、ニコニコ。そう笑いながら、零ちゃんは東郷くんを見上げた。

「だめ?」
「・・・・・・その忠誠心は認めてやる。が、クラスぐらい教えろ」
「どうして?」

  零ちゃんは首を傾げてそう尋ねる。東郷くんに顔を近づけて、もう一度首を傾げた。東郷くんが顔を赤くするのが見えた。

「僕は僕だよ? それじゃダメ?」





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