赤崎妹と、監督 





あれから、数日たった。
あれからというのは勿論、遼兄と喧嘩してからだ。
JFリーグは開幕まじか。
(私には関係ないけどね)
私は大学に入り、クラブと授業を両立させている。
うん、有意義!
ETUには顔を出していない、し、出す気もない。
タッツミーやゴトゥーからお誘いのメールや電話がきたが、全て断った。
私は元気だ。
(サッカーの面々は空元気だとか言うけど)

「ナツ、人が呼んでる」
「誰?」
「お前の兄貴ではない」

(兄貴ではないって、あの人はもう、私に関わってこないよ)
ケイトにグラウンドから押し出され、呼んでるという人の元へ行く。
あの後ろ姿は、

「よっ! 久しぶりだな、ナツ!」
「タッツミー。何でここに」
「ん? お前、この前ハーゲンダッツ食わないまま帰っただろ。だから、」

はい、とタッツミーは私の手の上にアイスを置いた。

「なぁ、ナツ、ETUの練習場に、」
「行きません」
「まだ、来いとはいってないだろ、」
「……」
「この前、パッカ君が来てたんだぜ。だから俺、誘ったのになぁ、」
「へぇ、」
「その前は、途中で雨が降ってきて、泥だらけのボールが王子に当たってさー!」


ケラケラとタッツミーは楽しそうに笑う。
この前まで、同じように私も笑えていたのに。
(所詮、今の私は"空元気"だから笑えない)
だめだ、泣きそうだ。やめてよ、タッツミー、達海さん。

「なぁ、ナツ」
「……何スか」
「お前の兄貴がな、絶不調なんだよな。お前が途中で帰ったあの日から」
「へぇ、」
「スタメン落とすかも」
「……へぇ、」
「絶不調の理由聞こうとしても苛々しててさ、椿とかビビってんだよ」
「……へぇ、」

タッツミーは俯く私の頭を優しく撫でる。

「……なぁ、ナツは赤崎の事が嫌いなのか?」

嫌いじゃない。
私は小さく首を横に振る。

「ほら、ちゃんと自分の口で言えよ、ナツ」
「……嫌い、じゃない」
「怖いのか?」
「……普段は、怖くない」
「キレてる時は怖いのか。そりゃ、コエーよな。年下から見たアレは」

俺だってコエーもん。
タッツミーはそういって笑った、

けれど、

いきなり、真剣な顔になった。

「お前、何回赤崎と喧嘩して何を失ったんだ?」

ぐにゃり、と私の顔がいがむ。
わからない。
何を失ったかなんて、

「今回で、三回目だけど、わかんない。何を失ったかなんて、わかんないよ……!」


ボロボロとこぼれ落ちる涙を止めようとするが涙は止まらない。

つきまとわなくなって、遼兄との距離がわからなくなった。
大好きだったピアノを止めた。
遼兄との接し方がわかんなくなった。
遼兄との関わりを、なくした?

タッツミーに全て告げると、タッツミーは「そっか、」と告げた。

「ナツ、赤崎も同じ事言ってた。同じ事、は語弊があるな、アイツは"俺のせいで"ってついてたから」

"俺のせいで"、ナツは俺との距離がわからなくなった。
"俺のせいで"、アイツはサッカーと同じくらい好きだったピアノを止めた。
"俺のせいで"、ナツは俺とあんまし接しなくなった。
"俺のせいで"、ナツはETUにこなくなった。
"俺のせいで"、兄妹じゃないみたいになった。

タッツミーは淡々とそう告げると、また私の頭を撫でた。

「ナツ。赤崎は反省してんだ。お前との絆を断ち切りたくないんだよ。だから、ETUに来てやってくれ。……赤崎だけじゃない、世良も俺のせいであの二人が喧嘩したとか、椿や堺や緑川達もお前の事心配してる。ジーノも不機嫌だし、黒田なんて珍しく、俺が止めていればとか言ってへこんでんだぜ? それに、」
「……ひっく……」
「俺も、心配した。お前が俺みたいに何処か遠くに、消えるんじゃないかって」

タッツミーは真顔でそう言いきると、悪戯っ子のような顔で両手を広げて私をみた。

「ナツ、泣くなら俺の胸でなけ! 泣いたら、ETUの練習場にいくぞ!」

私は黙って、借りることにした。



赤崎妹と、監督
(タッツミー、)
(んー?)
(、ありがとう)
(……別にいいって)
タッツミーの抱きしめてくれてる腕の力が、強くなった気がした。


24

SQUELCH!!