赤崎妹と、監督 





問に対して不機嫌になった達海に、やはり知らないのか、と思う。俺に答えを求めようとしたので、達海に対して尻を蹴りあげるよう「本人に聞け」と言ってやれば、不機嫌な顔をしたまま敷地を出て行った。ソレを見送り、あの様子ならなんとかなるか、と思っていたら、後藤が声を上げた。

「笠野さんはナツちゃんを知ってたんですね」
「まぁな、あの子が小学生ぐらいの時に知り合った。まさか、赤崎の妹とは思わなかったけどな」

そう言いつつ、昔の嬢ちゃんを思い出す。嬢ちゃんといえば、泣いている姿しか思い浮かばないのだけど。

「――あの子は昔の達海と同じだよ」
「え?」
「本当はピッチに立ちたいんだ。プレイヤーが嫌なわけじゃない。実際、雪代女子で出た時のプレーは楽しそうにやってたろ。でも、」
「でも?」
「――思い出が邪魔をするんだろう」

あの嬢ちゃんとの付き合いは、あの嬢ちゃんが小学生の時から始まる。
たまたま赴いた、都内でも珍しい女子のみのチームの試合。その中に、嬢ちゃんはいた。プレーは魅せるものが合った。それはどこか達海に通じるものがあって。
――こりゃ、将来が楽しみだ。
そう思って、眺めていたのを覚えている。すこし話してみようかと、試合後の嬢ちゃんの元へ行けば、泣いていた。人に隠れて、一人で泣いていた。どうしたものかと周りをみるが、チームメイトは気づいていないのかそのままバスに乗り込んでいくのだ。しばらくして、立ち上がった少女は目元を無理やり拭って、心配してやって来たコーチに笑顔を見せて笑ったのだ。
――今日のゲームも、楽しかったね、と。
それは、あの時の達海に酷似していた。
それから気になって、そのチームの試合を観に行けば理由がわかったのだ。少女の両親は仕事だからか来ておらず、チームメイトの親が観客席を埋める。
嬢ちゃんが活躍するたびに、多くの親はすごいと声を上げるが、一部の親はヒソヒソと、贔屓だ、とか、あんな子よりうちの子を、とかいう声を上げるのだ。酷い親は、監督やコーチまでそういう話を持っていく。しかし、監督は得点メーカーの少女を試合ださないわけがない。もっとひどい親は少女に対し声を上げる。チームメイトはそれが当たり前なんだろう。気にすることなく、通り過ぎる。そして、コーチに媚を売っただとか、そういう会話になっていくのだ。親から子への悪循環である。少女は鈍感ではなく、それをかんじとって泣いていた。鈍感なのは、チームをまとめる大人たちで、少女が笑うから大丈夫だと踏んでいたのだ。
ああ、この子は潰されてしまう、と思った。だから、泣いている少女に声をかけたのだ。

「プレイヤーは楽しいか? お嬢ちゃん」

その問に、嬢ちゃんは顔を上げて、無理やり笑ってみせたのだ。

「たのしいよ、とても」

赤崎妹と、監督


何故に私の部屋にタッツがいるんだろうか。
お母さんが私の部屋にタッツを上げたからです。わかります。しかも、お母さんは仕事に出かけてしまった。解せぬ。
そう思いながら、こっちを見てくるタッツに、目を泳がせる。い、居心地が悪い。

「なぁ、ナツ。聞きたいんだけど」

まっすぐに、真剣な顔でわたしを見るタッツから顔を逸らす。

「なんでお前はプレイヤーにならねぇの?」
「……監督のほうが楽しいから」
「嘘だろ。だって、この前のお前は楽しんでプレーしてたじゃん。俺みたいに、負傷したから出来ねーわけじゃない。まぁ、スタミナは問題あるけど。もとから監督しかできないわけじゃない。なんで?」
「……」
「なぁ、ナツ、こっち見ろよ」

タッツの真剣な声に、チラリとタッツを見る。真剣な顔である。どこか怒っているような気もする。
また視線を落とせば、タッツは息を吐いた。その先を聞きたくなくて、ぎゅっと拳を握る。

「俺はな、本当はまだプレイヤーとしていたかった。もっと、サッカーしてたかった。足が故障したから引退した。でも、お前は違うだろ?」
「だって、」
「だって、なんだよ。監督でいる理由を聞いてるだけじゃん。答えを教えてくれよ。お前、プロになりたくてもなれない奴が何人いるかわかってんの?」
「わかってるよ!」
「なら、」
「でも、嫌なの! なんでタッツまでそんなこと言うの! お母さんも、お父さんも、みんなそればっか! 私は嫌なの!」
「だから、なんで」
「誰かに悪口を言われてまで、ピッチに立ちたくないの!!」

大きくそう言って、呼吸を整える。

「出て行って、」
「……」
「出て行ってよ! タッツまでそんなこと言うとは思わなかった!」
「……ナツ、」
「出て行ってってば!!」

ボロボロと溢れる涙を無理やり拭って、タッツに枕を投げる。

「もう、貴方とは会いたくない。出て行ってください」

固まった彼を、無理やり外へ出す。おい、と小さく声が聞こえたが無視である。
部屋の扉の鍵を締めて、扉に背中を預ける。遠ざかる気配に、またボロボロと涙がこぼれてきた。


92

SQUELCH!!