古今東西英雄無双(5) 



「何の用だ、曹操」

 目の前に現れた女性にナマエはどう反応すればいいのかわからなかった。美しい銀色の髪に、服装は際どい。神聖な雰囲気を醸し出している。本当に「仙人」なのだろうか、と凝視していれば女性はナマエに気づいた。

「ほう、これはまた面白い子が来たな」

 そう言ってのけた彼女は、ナマエに近づくと上から下まで食い入るようにみる。ナマエは居心地悪そうに視線をそらした。

「誰かを探してこの世界に迷い込んだのか」
「――え?」

 言い当てられたそれにナマエは瞬きをして女性をみる。曹操は知らないはずのそれだ。

「いや、元の世界に帰る術を探しているのか」
「そのことばでは、孫市と同じ世の人間ではないのか?」
「は? ちょっとまてよ、確かにナマエは南蛮っつーか、他の大陸から来たが、他の世界だなんて、」
「この子が告げなかっただけだろう。こんなことが起こらなければ、お前達は信じまい。……かわいそうに」

 そう言って、頬に手を添えられる。ナマエは驚いて固まった。微動だにしなくなったナマエを孫市は女性――女媧から引き離す。女媧は不満げに孫市をにらんだ。

「まぁ、話はおいおいしよう。しばらくは私もここにいるからな。名はナマエというのか?」
「はい。貴方は?」
「女媧だ」

 そう告げた女媧は曹操に向き直り、で、何の用だ、ともう一度尋ねる。

「なに、ナマエが面白いことに気づいてな。この世界の言葉についてだ」
「言葉? あぁ、潔く気づいたか」
「やはり、何かの術か」
「そうなるな。大方、遠呂智がこの世界を作る際にそうしたのだろう」
「そう言われると、まるで遠呂智が人間が団結するのをまっていたみたいだな」

 孫市の言葉に、女媧と曹操は孫市を見た。少し考えてから、「ありうるな」と返答をする。ナマエはというと、遠呂智? と首を傾げている。ナマエの中でオロチといえば、八本の首をもつ大蛇である。女媧はナマエの反応を見て、首を傾げた。

「ナマエは遠呂智を知らんのか?」
「八本の首をもつ大蛇のことですか?」
「いや、違う。それは人の伝承だろう。ナマエはいつ、ここに来たと錯覚した?」
「ついさっきです。孫市と出会ったぐらいに」

 ナマエの返答に女媧は顔をしかめた。何かがあるのだろうか、と首を傾げては見るがそれに対しての返答はない。

 場の空気が一変したのは、どこからともなく現れたこれまた女性が「清盛を発見ー!」と告げた時だった。

「はにゃん? なんだかお話中?」
「いや、これはまた話したほうがよさそうだな。進軍の準備をする」
「ナマエはどうする?」
「ナマエ、今回はここに残るが良い」
「孟徳!」

 曹操の言葉に夏侯惇が抗議をあげた。しかし、変に反対しても反感を買うだけだと頷くナマエに、孫市は安堵のため息をこぼす。曹操が人を呼べば、ぱたぱたと青年が走ってきた。ナマエは青年を見た。まだ、少し幼い顔をしている。

「ナマエは此奴といっしょにいてくれ」
「わかりました」
「夏侯惇、これならいいだろう」

 曹操の言葉に言い返さない夏侯惇を見るに、どうやら青年は夏侯惇の信頼をおく人物らしい。ナマエが軽く会釈すれば、青年は人懐っこい、しかしながらどこか警戒心を隠した笑みを見せた。





「女媧よ」

妲己の発見場所に急ぐさなか、曹操は女媧に声をかける。女媧はぶっきらぼうに正面を向いたまま、なんだ、と尋ねる。

「ナマエのことだが、」
「それがどうした?」
「お主はナマエをかわいそうだと言ったな。別の世界への帰り方を探しているとも」
「あぁ、そうだ。ナマエはこの世界にも、戦乱の世にもいるべき人間じゃない。下手をすれば、ナマエ一人でこの世界のバランスを崩すことも考えうる。あの子のもつ技術は、そういうものだ」
「なるほど。だが、それだと、かわいそう、ではあるまい」
「あの子のいるべき世界で、あの子の居場所はないと言っても過言ではない。いや、誰かはあの子を探し続けているだろうが」
「なぜだ?」
「――そこまでお前にいうことなのか? これは、あの子が自覚していないそれでもあるんだぞ?」

 女媧は顔をしかめて曹操をみる。曹操は、ならば儂が黙っておけば良いのであろう、と満更でもないように告げた。