古今東西英雄無双(6)
花びらが舞う庭園で、ナマエはのんびりとそれを眺めていた。案内してくれたのは先程の青年である。彼とナマエは少し間隔を開けて座っていた。穏やかだ。政宗のところ然り、ここ然り、穏やかである。ナマエが騒乱に巻き込まれていない立場だからという理由もあるだろうが。
「……こんな日は本でも読みたいな」
思っていたことがついくちに出てしまったらしい。青年はきょとん、とした表情でナマエを見た。
「なぁ、そういえば、あんたの名前はなんて言うんだ?」
「私ですか?」
「うん。あ、こういう場合って、俺から名乗るもんなんだっけ」
そう言ってはにかんだ青年に、ナマエは可愛らしい顔立ちだな、と的外れなことを考える。MSFにいれば、きっともてたにちがいない。頭をよぎったその考えに、ナマエは眉尻を下げた。もうない、かもしれない。いや、ボスがきっとつくっている。
「俺は夏侯覇。よろしくな」
「夏侯覇さん、ですね」
「そんなかたっくるしいのは無し!」
「では、夏侯覇くん、で」
「その口調はどうにかならないのか?」
癖です、癖。ナマエは苦笑いしながら青年――夏侯覇に告げる。そして、一呼吸おくと夏侯覇に名乗った。
「私はナマエです」
「あれ、名字はないってことは元々は農民か何かなのか? 戦国の世? でも、そうなんだろ?」
「いえ、そう言うわけではないですよ。というか、よくご存知ですね」
「前にきいたんだよ。ナマエは農民じゃないのか」
「農民に見えます?」
「いーや。農民にも商人にも見えない。かと言って、武人にも見えないっていうか……」
「まぁ、貴方がたがいう戦乱の世では、居候の身でしたしね。でも、元はこう見えて傭兵ですよ」
そう告げたナマエに夏侯覇は目を瞬いた。よっぽど見えなかったらしい。
「っていうことは、雑賀衆、だっけ? そこの所属なのか?」
「いいえ、なんかどうせ後で曹操さんに話さないといけないのでぶっちゃけますが、私は戦乱の世の人間じゃないですからね」
「え、そうなのか? 確かに、周りの奴と服装とか髪色とか目の色が違うけど……」
「元いた場所で、色々ありまして怪我を負っていたんですが、気づいたら戦乱の世で孫市達に助けられました」
「で、またこの変な世界にきたんだな」
「……信じるんですか?」
「え、嘘なのか?」
「……本当です、が、突拍子もないことでしょう?」
私は自分でも信じられません。
ナマエが自嘲気味に笑った。きょとんとした表情の夏侯覇が口を開く。
「でも、それが起こったからナマエはここにいるんだろ?」
夏侯覇の言葉にナマエはなにも言い返せなかった。確かに、それが起こったからここにいる。夢ならいいのに、とねがっても目が覚めないこれは、夢ではない。
あざ笑って、欲しかった。信じてくれなければ、自分も、そうだよな、ありえないよな、ならば夢みたいなものなのだろうと納得できたのに。
「……そうですね」
「ナマエの世界はどんな世界だったんだ? みんな名字はないのか?」
「名字はありますよ。私も昔はありました。名を捨ててしまったから、ナマエという名になっただけで」
「名前を……?」
「私の世界は、」
ナマエはそこで区切った。そして、思いを馳せる。脳裏に浮かぶのは、やはりあの人の後ろ姿で。
「とても残酷で冷徹でしたが、とても優しく暖かい世界でもありましたよ」
ナマエの言葉に夏侯覇は首を傾げた。ナマエの述べた言葉が矛盾しているからだろう。
さて、暇を潰す術を思いついた。ナマエは夏侯覇を見る。
「夏侯覇くん、よければ教えあいっこしませんか? 私もこの世界のことを把握したいです。貴方の世界のことも」
ナマエの提案に、夏侯覇は頷いた。