古今東西英雄無双(7)
遠呂智が作り出した世界。しかも、二つの世界の英傑達を時代が関係なく集めている。そんな話を夏侯覇に聞いたナマエは呆れると同時に納得していた。だから、自分が認識している「戦国時代」の人間と「三国志」にでてくる人間が共存しているのか、と。
「なにその古今東西英雄群」
ぽつり。と呟いたナマエに、目の前にいた夏侯覇が首を傾げた。まぁ、古今東西英雄群といっても、アジア圏だけなのだけれど。戦国時代にタイムスリップといい、こんな変な世界に飛ばされるとは。まるで小説や漫画のようである。まぁ、現実は小説より奇なり、なんて言葉はあるが。
夏侯覇が持ってきてくれた書物を、夏侯覇に聞いたりしながら眺める。中国語自体は暇を持て余したボスに教わったが、それはしゃべり言葉であったし、文章とは別だ。個人的に中国語の文章は勉強したが、残念なことに現代ではあまり見ない文法があったり、何よりもミミズが張ったような文字が読みづらいを通り越して読めない。そこを夏侯覇に教えてもらいながら読んでいたのだが、つい、一人で熱中してしまっていたらしい。顔をあげれば、もう、夕暮れ時である。隣に顔を向ければ、柱にもたれかかるように夏侯覇が寝ていた。寝顔は、やはり幼い。アジア系の人はやはり幼くみえるのだろうか。起こそうか迷ったものの、起こしたとしてもナマエは書物に没頭するであろうし、夏侯覇はどうせ暇になる。なら、起こさない方がいいだろう。
ナマエはまた書物に目を向けた。漢詩、と呼ばれるそれだ。兵書はさすがにナマエが怪しまれている節があるため、借りることはできなかった。
「漢詩、といえば」
ナマエは兵書をずらし、庭を見る。夕暮れと桃の花が美しい。
「国破山河在、城春草木深。感時花濺涙、恨別鳥驚心。烽火連三月、家書抵萬金。白頭掻更短、渾欲不勝簪」
前世、と言われるそれで習ったもの。もうほとんど忘れてしまっている知識で唯一覚えている漢詩だ。
「ほぅ、詩を嗜むか」
庭の奥から現れた曹操にナマエは瞬きをした。後ろに夏侯惇と恰幅の良い男性をひきつれている。 耳をすませば遠くで沢山の足音が聞こえる。どうやら、帰還したらしい。
「これは知識として知っているだけですよ」
「それでも、いい詩よ」
近づいてきた曹操は、ナマエのそばに座った。偉い人物がいいのか、とも思ったが気にしていないあたりいいのかもしれない。夏侯惇は隻眼でナマエを睨んでいるように見えるが。恰幅の良い男性は夏侯覇のそばに行くと夏侯覇を「おーい、息子ー」といいながらゆする。息子……? とナマエが首を傾げていれば、曹操がふっと笑った。
「その詩は、儂達の時代より先で作られた詩か?」
「なぜわかったんです?」
「女媧から、ナマエは儂や信長よりも先の時代から来た、といっていたからな」
「何でわかったんですかね」
「仙人だからだろう」
「なら、私の世界への帰り方を、知ってるんでしょうか」
ナマエがぽつり、と呟いた言葉に、曹操は数秒の沈黙の後「知ってるかもしれんな」と言った。ナマエは首を傾げるが、後で女媧本人に聞けば良いと考えたらしい。ナマエは目を伏せた。
「他に何か詩は知らないのか?」
「曹操さん達の世界の詩はそれだけです」
「お主の国の詩はないのか?」
「あると言えばありますが、」
「聞かせて欲しいものだ」
「……Наши нивы глазом не обшаришь,Не упомнишь наших городов,Наше слово гордое - товарищ -Нам дороже всех красивых слов.С этим словом мы повсюду дома.Нет для нас ни черных, ни цветных.Это слово каждому знакомо,С ним везде находим мы родных.Над страной весенний ветер веет.С каждым днем все радостнее жить,И никто на свете не умеетЛучше нас смеяться и любить.Но сурово брови мы насупим,Если враг захочет нас сломать,
Как невесту, Родину мы любим,Бережем, как ласковую мать」
「不思議な響きの詩よ。ナマエの国のものか?」
「私は国を捨てた身なので、なんとも言えませんが、まぁ、私が元々暮らしていた国は大国から独立したんですが、その大国の言葉であり、詩でもあります」
「ほぅ」
ナマエの言葉に、曹操は髭をさすった。いつの間にか起きたらしい夏侯覇と、その父親であるという男性は首をきょとんとした顔で傾げている。
「どういう意味なんだ?」
「口語で言えば、『眼前に広がる我らの畑、心に焼き付く我らの街。我らは誇らしき言葉「同志」をどんな美しい言葉よりも大切にする。この言葉があれば、どこでも我が家のよう。我らには黒人も、有色人種も無い。誰もが知るこの言葉で どこでも友に出会える。祖国の上を春風が吹き、日ごとに増す生活の喜び。我らはこの世界の誰よりも、良く微笑み、そして愛する。だがもしも敵が我らを打ち破ろうとすれば、険しく眉をひそめるだろう。我らは妻を愛するが如く祖国を愛し、優しき母を守るが如く祖国を守るのだ』。元はもっと長いはずなんですけどね、忘れてしまいました」
「国を詠んだものか」
「ええ、その大国を思い歌ったものです。『祖国の歌』と言われていました。……私の住んでいた地域では、詩には殆ど曲がつきものなんです。だから、どんな言葉も詩になってました。もっと惨いものもありましたし」
ナマエが首をすくめると、曹操は興味を持ったらしい。「それは是非とも聞きたいものだな」と何処か瞳を輝かせている。それを見て夏侯惇がため息をついた。ナマエも少し顔をしかめる。
「ひどいですよ?」
「どんなにひどいか、聞いてみたい」
「Allons enfants de la Patrie,Le jour de gloire est arrivé !Contre nous de la tyrannie,L'étendard sanglant est levé,L'étendard sanglant est levé,Entendez-vous dans les campagnes.Mugir ces féroces soldats ?Ils viennent jusque dans nos bras.Égorger nos fils, nos compagnes !」
「旋律は勇ましいな」
「まぁ、革命の詩ですし」
「ほう」
「行こう 祖国の子らよ。栄光の日が来た! 我らに向かって 暴君の 血まみれの旗が 掲げられた。血まみれの旗が 掲げられた。聞こえるか、 戦場の 残忍な敵兵の咆哮を。奴らは我らの元に来て 我らの子と妻の 喉を掻き切る! 武器を取れ 市民らよ。隊列を組め 進もう 進もう! 汚れた血が 我らの畑の畝を満たすまで! 、という感じですかね」
「なんつーか、董卓に捧げたい詩だな」
「むしろ、董卓を狩りにいく時の詩だろう」
ぽつり、と恰幅の良い男性の言葉に、夏侯惇がすらりと呟いた。
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※補足
祖国の歌――ソ連の軍歌。2番あたりと4番あたりを抜粋しています。
後半の歌――有名なフランス国歌。正しくは、ラ・マルセイエーズ。1番のみ。