古今東西英雄無双(8)
ようやく曹操に解放されたのは、夜更けになろうとしていたぐらいの時間だ。あれからも、詩からはじまり文学やら文化やら様々なことを聞かれた。といっても、歴史的なそれではない。流石に向こうは未来を聞くわけにはいかなかったのだろう。
ナマエは女官に案内され、部屋にいく。好きに使えと言われたその部屋は一人にしては広く、そして、美しい装飾がなされていた。ベッドでも、畳の布団でもなく、寝台と簡素な机がある。ナマエは腰や足についていたバックパックを取り外し、机の上に置いた。何が入っているのか、確認する為だ。
「ナマエ、いるか?」
遠慮がちにかけられた声にナマエは振り返る。ちらり、と廊下から顔を出しているのは孫市だ。なんとも言えない表情をしている。
「入ってもいいですよ、孫市」
そう促せばやってきた孫市に、座る場所がないと寝台に腰掛けるのをすすめる。そして、ナマエはバックパックを置いた机に腰掛ける。孫市はどう切り出そうか迷っているらしい。視線を揺らしている。
「すいませんでした、孫市。色々黙ってしまっていて」
ナマエが口火を切る。孫市は真っ直ぐにナマエを見た。
「でも、貴方達は信じなかったでしょう? 私が他の世界から来ただなんて」
「……あぁ、そうだな。こんなことにならなかったら、信じることができなかった。別に、お前のその判断は間違ってないと思うぜ」
「……ありがとう、ございます」
ナマエは目を伏せる。孫市は困ったようにナマエをみた。ナマエはまた口を開く。
「孫市に助けてもらう前、私は確かに海の上にいました。そこが、私が生活する場所で――孫市の雑賀荘と同じような感じです。しかし、ある日、私のボス――孫市と同じ立場の人です。その人が任務に向かってる間に、敵に攻められてしまい、ギリギリ、ボスが帰ってきたのですが、あえなく陥落」
「っ!」
「私は生き残りました。しかし、脱出する手段には定員があり、そして、最後の一人の枠には、私か上司か、どちらかしか入れなかった」
「……譲ったのか?」
「はい、それが一番、いい手段でしょう?」
「バカ言うな、どこがだ!」
急に声を荒らげた孫市に、ナマエはビクリと体を揺らす。ナマエは孫市をみた。どうやら、本気で怒っているらしい。
「二人で生き残る手段を探せばいいだろ!」
「でも、そうしないと二人ともお陀仏でした。最悪、私みたいな隊員が死んでも、誰かがいつか、そこを埋める」
「っそんなワケねぇ! お前は勘違いしてる! 死んだ人間の空白を埋める奴なんかいやしねぇ!」
「……」
「きっと、そいつはずっと後悔してるはずだ」
「そう、でしょうか」
「あぁ」
悲しそうにそう告げた孫市に、ナマエは目をそらした。苦手、だ。そういう表情は。
「……まぁ、そこから海に転落して気づいたら助けられていたわけなんですが」
「……成る程な。だから、お前はボスを探してんのか」
「ええ、別れる前に約束しましたから」
「約束、?」
「必ず生きています、と」
ナマエの言葉に、孫市が目を見開いた。