古今東西英雄無双(11)
世界の危機は救われた、らしい。
あの後、孫市と共に本陣へもどったのだが、その後すぐに魔王遠呂智が討たれたという報告が入った。ナマエはとりあえず、怪我人の手当てをすることにする。矢が刺さった人や軽い切り傷程度(武将と呼ばれる彼らは圧倒的に後者ばかりだ)はまだいいが、深く切られたもの、相手(というより伊達の鉄砲隊)に撃たれたもの、腕がないもの、など、ナマエは様々な兵を見ていった。偉い武将達に感心されたが、ナマエは処置でそれどころではなかったといっておこう。
まだ生きている人がいれば本陣まで連れ帰る。その考えに武将は少し渋っていた。ナマエは、「片腕がなかろうが、足がなかろうが、生きていれば生きているのは違いない。失った足や手は義手や義足を補えばいい」といってから、武将達が首を傾げたのを見て、「ああ、まだ、この時代には義手や義足ないのか」と理解する。興味を持ったらしい諸葛亮や月英に話せば、作ってみようという話になっていた。さすが「仁」を掲げる国だ、とナマエは思った。
生きている人を探す為、戦が終わって数十時間禍々しいその場所、死体が重なるその場所をナマエは見渡す。生きている人がいれば救おうかと思ったが、どうやら無駄手間であったらしい。ぼう、と立つナマエの頬を夜風が撫でた。
「あ、いたいた、ナマエ」
背後から呼びかけられた声にナマエは振り返る。「こんな夜に出ていくとあぶないぞ」と夏侯覇が眉尻を下げていた。夏侯覇を最後に見たのは戦が始まる前だった。なんだか懐かしく感じる。それだけ濃密な一日だったのだろう。
「怪我はないみたいだな」
「そっちもね」
「俺は甲冑をきてるからな」
そう言って、夏侯覇は首を竦めた。西洋風の甲冑はきているが、兜はかぶっていない為、夏侯覇の人懐っこい笑みがよく見える。ナマエが、なんとなしに見つめていれば夏侯覇は戸惑ったように「なんだよ」と口を開く。ナマエはなんでもない、と首を左右に振った。
「ナマエはこれからどうするんだ?」
「女媧さん達に元の世界に帰れるかきこうと思ってます」
「女媧? 女媧ならもう帰ったみたいだけど」
「え、」
ナマエはきょとん、とした表情を浮かべる。戦が終われば、元の世界に帰れるか調べてやる、だなんて言っていたのに。なんということだ。作業に没頭した私が悪いのか。ナマエは唖然としたまま夏侯覇をみた。夏侯覇は首を傾げている。
「約束、すっぽかされた」
その言葉を理解した夏侯覇は、目をパチクリと瞬くと笑った。
「まぁ、気楽に過ごせばいいだろ。みんな元の世界に帰れる方法を模索してるんだから」
それからいくらかの時がたった。ナマエは孫市に宣言通り引っこ抜かれ、魏軍や政宗の元でなく雑賀衆にいる。時々、政宗のところや魏軍に立ち寄り、政宗や曹操達と会話をしたりもしているが。しかし、魏軍と織田軍の戦に巻き込まれたくないらしい孫市や政宗に、きな臭い時は魏軍にはいかないように口酸っぱく言われている。その代わり曹操や仲良くなった魏軍には、政宗は遠呂智の残党なのだから近づくな、と言われる。後、勧誘もされる。どうやら孫市はこれを見越していたらしい。
今日もナマエは魏軍を訪れた後だ。夕暮れ刻に馬に乗り、帰路を急ぐ。夏侯淵がナマエを泊まっていくか、という誘ったがナマエは断った。明日には予定が入っていたし、ややこしいことに巻き込まれる予感がしていたからだ。
最近は、馬に乗るのも慣れたもので、今では最初の半分の時間で行き来することができる。だから、と油断して魏軍に居座っていれば、こんな夕暮れ時に帰ることになったのだが。
「ナマエ」
ふと、耳元で聞こえた声にナマエはとまる。馬を止め、後ろを振り返れば男性がいた。影になっていて、姿がちゃんと見えない。だが、男性である、ということはわかる。
「貴方は?」
「……」
問いかけても答えないその影に、ナマエは馬を下りて近づく。いくら近づいてもはっきりしない影にナマエが妖魔の残党かと警戒した。男は口を動かして、何かを探すような動作をしている。ホールドアップできそうな距離まで近づく。
「――ナマエ、どこだ、」
はっきりと聞こえた声に、ナマエが驚いたのとそれが起きたのは同時だった。ぐいっ、と引っ張られ、ナマエの視界が暗転するのがわかる。ナマエは黒い何かに溶け込むように消えていく。
「ちがう、ナマエはいきている」
黒い影が小さくつぶやく。そして、黒い影は粒子のように拡散した。
その場にのこされたのは、ナマエのハンドガンと馬だけだった。