感染注意(3) 



「……まぁ、今はそんな話はどうでもいいか」

 男はナマエの言葉に、少し息を吐く。というのも、ナマエが「子供兵である」とつげたときに、ピリリとした殺気を感じ取ったからだ。男は気を取り直し、ナマエに尋ねる。

「君はこの現状の原因をしっているのか?」
「いえ、騒がしいから部屋から出たらコレでした。なんだか嫌な予感はしてたんです。外部から人が来ていたから」

 ナマエはそういってため息をついた。

「外部から人?」
「おじさんとお兄さんでしたよ。名前は知りませんが」
「それは、もしかして――」

 男が何かを言おうとして、口を噤む。耳につけているインカムに耳を澄ましている。ナマエはその場に座り込んだ。
 ――疲労を感じる。仕方がない、数時間はこれで切り抜けてきたのだから。
 ナマエは先ほど落としたナイフを見た。血みどろになってしまっているそれは、使い物になりそうもない。よくこんな物で切り抜けたな、とナマエは乾いた笑いをこぼした。

「こちら、ピアーズ。学園内は爆発感染状態。生存者は――」

 男――ピアーズというらしい――がナマエをみた。ナマエは首を左右に振る。自分以外の生存者は見かけていない。

「ただ今、一人発見。同行しています。この学校の生徒ですが、事態の原因は知らない模様。ったく、予想の斜め上を行きやがった」

 ピアーズが憎憎しげに呟く。そして、インカムを一つナマエに投げた。

「これは?」
「予備のインカム。一応、つけて」

 ピアーズの指示通り、ナマエはインカムをつける。無線機のようだ、懐かしい。インカムから聞こえる声は、男性と女性の声である。当たり前だが、英語だ。女性はアジア系統なのかもしれない。すこし訛って聞こえる。ナマエが冷静にそう分析していると、インカム越しに声をかけられた。

『生存者の学生は無事なのか?』
「無事無事、今インカムを渡した」
「今のところ元気です。お気遣いありがとうございます、ミスター」

 とりあえず、無難な返答を返す。すると、『偉く落ち着いているな』と男性の声が聞こえた。

「パニックになっていても、どうしようもありませんからね」
『言うわね』
「さすがナイフ一本で屋上まで切り抜けてきただけあるよな」

 ピアーズの言葉に、は? という声が重なる。実際に見ていないのだから、分からなくて当然である。ピアーズは反応に肩をすくめた。

『……ところで、君の名前は?』
「私ですか? ……私はナマエです。ナマエ・シアーズといいます」
『ナマエ・シアーズ? どこかで聞いたことがあるな……』
「十中八九、新聞かニュースなどだとおもいますが
『ニュース?』
「まぁ、それは調べてみてください。そういえば、貴方達は何者なんですか?」
『……――俺達は、BSAA。バイオテロ対策部隊だ』

 BSAA。ナマエは口の中で復唱する。
 すこしだけ、長い付き合いになるような気がする。



 それにしても、いいのだろうか。
 ナマエは首をかしげる。インカムから流れてくるのは、このテロの情報だ。ビンディとナナン、二人の関係と、学園。そして、このテロの原因。知りたくもないそれが、部外者であるはずの私にまで届くとは。
 ナマエは眉をひそめる。
 二人とは関係がなかったとはいえない。なにしろ、一応は交友関係にあったのだ。ただ、逃げ出したいといった二人に対し自分はそれを拒否しただけで。おもえば、それがこのバイオテロの起こるか起こらないかの分かれ道だったのだろう。ナナンは逃げ出したのだと勝手に推測していた。違ったのか。

「そんなことがあったんですね」

 ポツリ、と呟いた言葉にピアーズが反応する。ナマエは首を振ってごまかした。

「とりあえず、俺達は外との連絡を取る。下のジープへ行こう」
「はい」

 ピアーズはそういって注意しながら階段を下りる。銃火器を譲って欲しいところではあるが、装備が足りていないのだろう。インカムの通信を聞いても、四名としかやり取りをしていない。何かのついでだったんだろうか。それに、BSAA、対バイオテロ部隊といっていたが、この世界では「核兵器」より「生物兵器」のほうが有利であるらしい。それにしても、BSAAはどこかで聞いたことがあるような気がする。どこだろうか。
 ナマエはそう考えながらも、必死にピアーズのあとをつける。どうにかジープに乗り込むと、ピアーズは目の前にいるゾンビを轢きながら急発進した。