世界の中心がボスになるまで(4) 


 「今日は本当に馬鹿騒ぎであった」と、ナマエは思っている。というのも、意識を戻した金髪の男性が仲間にはいるか入らないかをかけてボスと戦ったからだ。大食い対決やらなんやらで。それを遠目で見つめていたナマエは半分呆れていたのだが、まぁ、楽しそうならいいか、と自己完結したのである。ゲリラから逃げ切り、休憩とばかりに行き着いた場所でナマエは偶々手に入れた医療雑誌を読んでいた。
 そこに誰かの影がさしたので、ナマエは見上げずに口を開く。

「どうかしましたか? ボス」
「何を読んでいるんだ? ナマエ」
「医療雑誌ですよ」

 ほら、とボスに雑誌の表紙を見せる。ボスはそれを確認するとナマエの隣に座った。

「野戦病院で偶々手に入れたんです。というか、譲ってもらいました」
「そうか、それはよかったな!」
「……それより、いいんですか?」
「ん? ……あぁ、カズか。カズはお前と違って自殺はしないだろうからな」
「自殺はしませんよ。まぁ、生きたいかと問われれば、どちらでもいい、どうでもいい、と言うだけで」

 ナマエの言葉にボスはなんとも言えない表情をした。ナマエはそれを見ないでまた視線を雑誌に移す。

「どうしてそこまで生きたくないんだ?」
「そういわれても……じゃあ、なんでボスはそこまでして生きたいと思うんですか?」
「それは……」

 ナマエの質問にボスは返答に詰まる。暫く沈黙が続いたが、金髪の男性が近づいてきたことによりそれは破られる。
 金髪の男性は木の根元に座る二人を見下ろした。ボスはカズを見上げると、彼に喋りかける。

「カズ、こっちはナマエ。主に医務をやってくれてるが……まぁ、衛生兵のリーダーだ」
「ナマエ?」

 カズ、と呼ばれた金髪の男性はナマエを見る。ナマエはとりあえず雑誌をおろし、軽く会釈をした。

「医務長と衛生兵やってます。ナマエです」
「俺はカズヒラ=ミラー。よろしくな、ナマエ」

 差し出された手に握手で応じると、ボスがいたずらっぽく笑う。

「ちなみに、カズ、お前を救ったのはナマエだ」
「! そうか! 感謝する。君が処置しなければ、俺は死んでいたかもしれない」
「いえ、お気になさらず」

 握手から解放されるとナマエはまた医療雑誌に目を移した。

「それにしても、」
「どうした?」
「いや、″ナマエ″という響きが日本人っぽいんだが、ナマエは日本人か?」
「いや、ナマエは欧州出身だぞ」

 ナマエの代わりにボスが返答した。カズヒラ――カズが、そうか、と少し項垂れる。ナマエは心の中で、前世は日本人ですけどね、と呟いた。カズヒラ=ミラーが入ってきたということは、本当にここはゲームの世界なのだろう。自分は雑魚兵の一人か、なんてボンヤリと考えながら、ナマエはボスとカズの雑談(というか、これからの事の話し合い)をBGMに医療雑誌を読んでいたが、最近衛生兵に志願した兵士に呼ばれる。彼女は医療雑誌を閉じると、二人に「失礼しますね」と頭を下げてそちらにむかった。
 それを見送ったあと、カズがボスに問いかけた。

「ボスとナマエはどういう関係だ?」
「ただの上司と部下だ」

 ボスは簡潔に答える。
 自分にとっても相手にとってもそうなのだ。何を勘ぐっているんだ、カズは。
 口にこそ出さなかったが、ボスは心の中でそう呟いた。カズは少し嬉しそうな顔をする。

「てっきりデキてるのかと思ったが……そうか」
「……ナマエには手を出すなよ、カズ」
「それ、さっきの言葉と矛盾してるぞ? ボス」
「心配なだけだ、ナマエが」
「心配? 彼女、しっかりしてるじゃないか」
「あいつは死にたがりだ」
「!」
「本人の言葉をかりると、″生きたいか生きたくないかと聞かれればどちらでもいい″とか、″そこまで生きたいと思わない″とかだな。だが、俺には死にたがりにしか見えん」

 カズはボスの視線を辿る。そこには衛生兵達と話しているナマエがいた。

「それを治してやりたい」

 ぽつり、とボスがそう呟く。カズにはもっと他に理由があるような気がしたが、それを尋ねることはなかった。