世界の中心がボスになるまで(5)



 窓から海が見える。窓を開けば、潮風の匂い。海洋プラント、いや、マザーベースと言われる今の基地はあまりにも過ごしやすかった。前の小さな小屋のようなそれもそれで好きだったが、このマザーベースはそれ以上に好きだ。開発班が様々なものを作ってくれているからだろう。生活の基準が、前世と変わらないのだ。
 ナマエは窓から入ってくる潮風にあたりながら、とおくから聞こえてくるサッカーの試合の声援に耳を傾ける。唯一の娯楽であるサッカーで多くの人が出払ってしまっているからか、マザーベースは人が少なかった。
 だから、余計に、心配症なこの男は自分のそばにいるのだろう、私が死なないように。
 そんな推論をたてて、医務室のベッドで眠りこけている男――ボスをみる。

「本当に、心配症なんですね。ただの部下にそこまで気をかけなくていいですよ。自殺はしません、そんな勇気ありませんから。信用されてないんだなぁ、私」

 独り言のようにナマエがそういえば、ボスはゆっくりと起き上がった。

「そんなことはない。俺はお前を信用している」
「あれ、起きてたんですか?」
「あぁ、うたた寝だった」

 ボスは頭をがしがしと書くと、ベッドに腰掛けナマエの方へ向く。回転式の椅子をまわし、ナマエはボスの方へ向く。

「ただ――」
「ただ?」
「……いや、なんでもない。とにかく、俺はお前を信頼している」
「はぁ」
「気の抜けた返事だな」
「追求して欲しいんですか?」
「……」
「ほらね」

 ボスは溜め息をついた。
 ナマエはまた前を向き、書類に向き直る。また、沈黙が続く。

「ナマエは引き際がよすぎる」
「誰だって触れられたくないことがあるでしょう?」
「ナマエにもか?」
「……えぇ、まぁ」

 ボスの問いかけに短くそう返事をすると、ナマエはわざと音を立てて書類を整理した。そして、ボスの方に顔だけ向ける。

「ボス、私は大丈夫ですから、サッカーへ向かっては」

 有無を言わさないその言葉に、ボスは何か怒らせてしまったか、と眉を下げた。