選択肢は二つに一つ(8)



「スネーク、ファルコ、ちょっといいかな」

 試合が終わり、マスターに呼び止められる。それは、昨日のことだった。

 話は簡単だ。小さな亜空間が現れたので、様子を見て欲しいということだ。任務に行くのは、スネークとファルコ、ナマエ。珍しい組み合わせだな、とスネークは思いながら資料を見ていれば、ファルコも同じ事を思ったらしく言葉に出していた。

「だって、君たち、ナマエと一番仲がいいよね」
「まぁな」
「……ナマエに何かあるのか?」

 普通なら、仲の良さで構成しないだろう。効率で構成するはずだ。スネークはそう思い、マスターに尋ねる。マスターは数秒黙った後に、答えた。

「この亜空間は、ナマエが帰るために現れた可能性があってね」
「は? どういうことだ?」
「ナマエは正式に招待されたゲストじゃないだろう? 来たのも、小さな亜空間を通して、だ。そう考えると、ナマエが帰るために現れた可能性は否めないんだよ」
「なら何故ナマエをパーティーに入れる?」
「ナマエが帰りたがっているから」

 マスターが即答する。スネークとファルコはただ、黙った。

「僕は、ナマエに帰って欲しくない。不思議な存在だし、貴重な女の子だし」
「確かに一応貴重ではあるな」
「ファルコ」
「そう焦んなよ、スネーク」
「ナマエはね、常にここにいたい気持ち半分、いたくない気持ち半分っぽいんだよね。でも、最近、それが後者に傾きつつあるんだよ。自分がいてはいけないってね」
「なんだ? アイツ、自己嫌悪に陥ってるのか?」
「そうとも言えるね、彼女は怖いんだよ」
「何が?」
「ソリッド・スネーク。君が」
「……俺が? 嘘だろう?」
「嘘じゃないよ。彼女は君を恐れてる。その理由は、君が一番わかってるはずだよ」

 マスターの言葉に、スネークは黙る。心当たりがあるらしい。ファルコはソレをチラリと見てから、口を開く。

「じゃあ、この任務の本当の目的はナマエを見送ることか?」
「その逆だよ。引き止めて欲しいんだ、僕は」
「本人の意思は無視するのか?」
「ここにいれば、そのうち彼女は帰りたくなくなるさ」
「まぁ、わかった。ナマエをできる限り引き止める」
「……俺も善処しよう」
「頼んだよ! 絶対だからね!」

 部屋を後にする二人に、マスターが子供のように念をおす。二人は頷くと扉を閉めた。
 さて、任務は明日である。装備の話をしながら二人は夕ご飯をたいらげていた。不意に、ファルコが資料から顔を上げてスネークを見る。そして、また資料に目を落とした。

「なんだ?」
「聞いた方がいいのかと迷ったがやめた」
「何を」
「ナマエのあれこれ」

 クッションをおかずにスラリとファルコは答えた。スネークはため息をつく。

「スネーク、俺はナマエの友人だ。だから、アイツが帰りたいなら俺はそれを手伝いたい。任務の要件がなにであれ、な」
「そうか」
「マスターはアンタが原因だと言ってたな」
「あぁ」
「心当たりはあるんだろ?」
「あぁ」
「喧嘩でもしたのか?」
「いや、十中八九、俺の外見のせいだろう」

 スネークは資料に目を通しながら答える。ファルコは資料から顔を上げた。

「外見?」
「……ナマエと俺は同じ世界から来た」
「あぁ、知ってる。おれとフォックス達のようなものだろ?」
「いや、彼女は俺からすると過去の時代の人間だ。数十年前の、な」
「そうだったのか、でも、外見が何の関係がある?」
「彼女の恋人だ。いや、恋人だったかは知らないが、まぁ、意中の相手だ」
「似ているのか?」
「そっくりだ」
「でも、他人だろ? というか、その相手をスネークは知ってるのか?」
「……あぁ。他人、ではない。血筋的には、俺の父親にあたる人間だ」

 スネークの言葉に、ファルコは資料を落とした。スネークはその音で顔を上げる。

「ということは、お前、母親に恋してんのか!?」
「いや、彼女は母親ではない。あくまで、父親の恋人だ。彼女は俺とソイツの区別がキチンとできている。でも、重ねてしまう自分に自己嫌悪といったところだな」
「あぁ、そうかよ」

まぁ、それだけではないだろうが。スネークは頭の中で呟く。ファルコは大きくため息をついた。

「で、あんたはどうしたいんだ? スネーク」
「俺は、俺は――」




「引き止めたい、か」

 格納庫で愛車を手入れしながらファルコが呟いた。独り言を聞いていたらしいフォックスが首を傾げたが、なんでもない、と言えば彼は元の作業に戻る。
 友人として、ナマエの意見は尊重したい。離れ離れになるのは悲しいが、人生いつかは別れが来るものだ。周りより早くナマエのその時が来ただけ。それだけである。
 帰りたがっている、ようには見えない。むしろ、最近のナマエはこの世界を楽しんでいるようにファルコには見えた。かなり周りと打ち解けたようであったし、ファルコに対する敬語もなくなった。(まぁ、これはファルコがナマエにしつこく言ったからでもある)
なんというか、来た当初より雰囲気が少し柔らかくなったのだ。

「ナマエ!? どうしたんだ!?」

 不意に聞こえた声に、ファルコは整備の手を止めた。見下ろせば、フォックスがナマエと対面して尚且つ焦っている。

「どうした?」
「ファルコ、」

 声をかければ、困惑したようなフォックスの声が聞こえた。ファルコは仕方なく地面におり、二人に寄った。

「どうした?」
「ナマエが」
「ナマエ?」

 ファルコはナマエを見る。ナマエは顔を伏せていた。

「おい、ナマエ?」
「ファルコ、私は、どうしたらいい?」

 ナマエが弱々しい声で呟いた。フォックスが困惑している理由がわかった。どうやら、ナマエは泣いているらしい。

「何があったんだよ?」
「怖い」
「何が?」
「この世界にいることが」
「どうして?」

 何と無く理由を掴んだファルコに対して、理由を掴めていないフォックスはナマエに尋ねる。

「大切な人との思い出が、なくなってしまいそうで怖い」

 ぽつり、と呟かれたそれ。本心だろう。

「なら、元の世界に帰ればいいじゃねーか」
「ファルコ!」
「フォックスは黙ってろ。お前は、今選択肢がある。元の世界に帰るか、この世界に居るか。違うか?」
「……」
「俺は残れ、とか、帰れとは言わないぜ。それはお前が判断することだ。他人が口を出すことじゃない。だから、俺は何も言わない」

 ファルコは頭をかくと、ナマエをまた見た。

「でもな、俺はお前の意見を優先する。お前が帰りたいなら後押しするし、お前がここに残りたいなら、絶対に引き止めてやる。お前はどうしたい?」
「……私は、」

 ナマエが小さく言葉を区切る。
 そして、呟かれた言葉は。