世界は一人の為に回るか否か(1)

 
 ナマエは戸惑っていた。低くなってしまった視線に、ぴったりとサイズがあっていた服はサイズが合わず、下にずれてしまっている。何処かの部屋であるようだが、ヨーロッパのような内装のそこは見たことがない。
 どういうことだ、と思考を巡らす。確か、自分は亜空間にいたはずである。小さな亜空間がまたできた、というマスターの言葉にスネーク達と一緒に乗り込んだのだ。そこで、いきなり目の前が白くなって……白くなって?
 ナマエは首を傾げる。そこから先の記憶がない。わかるのは誰かが親切に自分を拾い、ここで寝かしてくれているくらいだ。

「とりあえず、ここはどこなんだろう」

 呟いた声は高く幼い。
 それに呼応するように扉がノックされ、返事をする前に誰かが入ってくる。
 目があった瞬間に、駆け寄ってくる彼――きっと、本当は同い年ぐらいなんだろう――は、駆け足で言葉を紡ぐ。

「あぁ、よかった! 目が覚めたんだね! 気分は大丈夫? どこも痛くない? 君は森で倒れていたんだよ」

 紡がれたそれは英語ではなく、フランス語だ。なるほど、今度はフランスにいるわけだ。ということは、また世界を飛んだわけになる。ナマエはそう考えながら男性を見る。返答をしなくては。しかし、フランス語はセシールに昔習っただけで理解はできるが喋れない。これが、彼ならば返答することもできたのだろう。とりあえず、英語で答えるか、とナマエは口を開く。

「体は大丈夫です、心配ありがとうございます」

 そして、驚いた。自分の口から出た言葉がフランス語だったからだ。驚いたナマエに気づいていないのか、男性はホッとしたような表情をする。

「よかった……君の名前は?」
「私ですか?」
「あぁ、名乗るのは自分からだったね。ボクの名前はプラターヌ。君は?」
「私は……ナマエです」

 一瞬、偽名を名乗ろうかとも考えたがそもそもナマエというものもコードネームに近い。偽名を名乗る必要がない。

「ナマエ、か。いい名前だね!」
「プラターヌ、さん? 、ここはフランスの何処なんでしょうか?」
「フランス? 何を言ってるんだい?」

 プラターヌが首を傾げたのを見て、ナマエは口元がヒクついたのを感じた。まさか、だ。よく似た別の世界ということなのだろうか。まさか、嫌な予感しかしない。ナマエな考えとは裏腹にプラターヌはこの世界にとっての正解を答えた。

「ここはカロス地方だよ」
「カロス、地方?」

 今度は名前が首を傾げる番だった。カロン地方なら聞いたことがあるが、カロス地方など聞いたことがない。

 ――やっぱり、か。

 ナマエは頭を抱えた。それをみて、プラターヌは頭が痛いのかとナマエを心配する。ナマエはそれに苦笑いした。

「プラターヌさん、この世界について教えていただけますか?」

 その言葉に、プラターヌがナマエを記憶喪失だと判断したのは仕方がないことだろう。