世界は一人の為に回るか否か(5)




「旅に、ですか?」
「そう!」

 プラターヌはそう言ってニッコリと笑った。
 それはカロス地方に行き着いて、一ヶ月ある日のことだ。
 最近は、博士が何やら忙しそうに準備をしていて、研究員はそれを微笑ましそうに見ていた。手伝おうか、と尋ねても「秘密だから楽しみにしといて!」と首を振るばかりであり、時々研究所から連れ出されるフラダリにそのことを零しても、彼も緩やかに笑うだけであった。しかも、しまいには服やかばん、スケート靴を贈られてしまった。
 全ての人の行動にナマエは一人首を傾げていたのだが、これが準備であったらしい。

「年に数人、子供が選ばれてこの地方をポケモンと一緒に旅にでるんだ。強さを求めたり、図鑑を完成させたり、理由は様々だけどね。色んな場所を巡れば、ナマエちゃんの記憶が戻りやすくなると思うんだ」
「もしかして、お邪魔でした?」
「いいや、邪魔なんかじゃない。むしろ、ナマエちゃんが抜ければこちらとしては痛手さ。でも、僕は君に旅をしてほしいんだ」

 眉を下げてそういった彼に、ナマエはまた首を傾げる。

「君はこの世界を綺麗だと美しいと笑う。この地方を巡って、その感想を僕は知りたい。なんたって、この地方は素晴らしいからね!」

 プラターヌ博士の言葉にナマエは考える。
 確かに、この世界は美しい。自分が今までいた血みどろの世界に比べ、遥かに美しい。街並みも自然も好きだ。このまま、この研究所にいても、研究の邪魔になるだろう。
 ――なら、旅に出て見てもいいかもしれない。

「そうですね、旅に、出てみたいです」

 ナマエの結論に彼は嬉しそうに笑った。

「なら、準備をしなくっちゃ! フラダリさんからカバンや服を貰ったんだよね?」
「はい」
「なら、僕からもプレゼント!」

 ニコニコと笑う彼は、図鑑と三つのモンスターボールを差し出した。

「ポケモン図鑑――はわかっているね。出会ったポケモンを確認することができる。何かに役立てればいいよ! そして、この三つのモンスターボールは……」

 博士が次々とボールを開ければ、ポケモンが現れる。あのリオルとピカチュウ、そしてあの隻眼のリザードンだ。

「3匹とも、君になついているからね! きっと何か役にたてると思うんだ!」

 そういって笑った博士に、リオルとピカチュウが鳴き声をあげ、リザードンはうなずく。博士はまた満足そうに笑うと、それらをボールにしまった。ナマエはそれを受け取る。確か、多くの人がベルトか何処かにつけていた気がする。

「あぁ! いけない! これも!」

 博士が次に渡したのはカードだ。

「それはトレーナーカードと言ってね、ポケモンセンターを無料で使うことができるんだ。旅には必需品だよ」
「ありがとうございます」

 カードは財布にでも入れたらいいだろう。カードをまじまじと見ると、住所が研究所になっている。

「明日、ナマエちゃんと同じように旅に出るの子がやってくるんだ。友達を増やしてもいいと思うから、今日は明日に備えて準備に当てよう!」

 ニッコリと笑った博士にナマエは頷く。あぁ、そうだ、フラダリさんにも報告せねば、鞄や服を贈られたので彼も予想を立てていただろうけれど。
 ナマエはすこし笑みを浮かべる。

 少し、楽しみなのかもしれない。