世界は一人の為に回るか否か(6)



 旅に出ます、という旨をフラダリに報告したのは昨日である。すると、なにやらフラダリはナマエに渡すものがあったようで午前中にでもカフェに来てください、と呼ばれてしまった。ナマエがプラターヌにそれを告げれば、ナマエと同じ立場の子供は午後にやってくるという。いっておいでよ、と笑いながら言われた為にナマエはフラダリカフェにいた。真っ赤な内装はお洒落であるが、居心地がいいかと言われればきっとノーだ。それもこれも、ウェイターやウェイトレスからくる視線のせいである。ナマエはそれらから顔を背け、膝の上にいるピカチュウを撫でていた。気持ち良さそうに笑うピカチュウは可愛らしい。

「申し訳ありません、待ちましたか?」

 不意にかけられた声にナマエは顔を上げた。そこには優しい笑みを浮かべたフラダリがいる。ナマエは「いいえ」と首を振った。

「お仕事が忙しいのに、ごめんなさい」
「貴女が謝る理由はありません。私が貴女と話したかっただけだ」
「えっ、と、」

 この人は、口説き文句を言っている自覚があるのだろうか。ナマエが苦笑いしていれば、フラダリはエスプレッソを二つ注文する。

「貴女を今日呼び止めたのは、二つ程要件があったのです」
「要件、ですか?」
「ええ、まずは、これを受け取っていただきたい」

 フラダリが取り出したのは真っ赤なホロキャスターだった。デザインは洗練されていてスタイリッシュである。

「ホロキャスター、ですか?」
「ええ。正しくは新しいホロキャスターの試作です」
「新しい?」
「ええ。ホロキャスターといえども、バージョンアップして新しい機能を追加しなければユーザーは買い替えたりしてくれませんから」

 ゾンビだらけだった前々の世界で言う、携帯電話のようなものだろうか、とナマエは思う。確かに、同じ機能のものしかなければ壊さない限り買い換えることはないだろう。

「貴女には、このホロキャスターのテスターとしてこれを持って旅をしていただきたいんです。もちろん、研究の一環なのでお金はとりません」
「いいんですか?」
「ええ、貴女に持って欲しい」
「……ありがとうございます」

 ナマエがそういえば、フラダリはまた柔らかく笑った。そして、追加された機能を教えてくれる。大きな追加機能といえば、普通のホロキャスターがメールという形で配信されるのに対し、こちらはホログラムの電話機能が追加されている。テレビ電話ならぬホログラム電話だ。後はタウンマップを見られるようになっていたり、メモができたりする機能が追加されているらしい。SFのような技術に驚く。凄い、の一言にかぎる。

「と、いっても、ホログラムの電話は同じテスターを持つ私しかかけれませんが」
「それでもありがたいです。素晴らしい技術ですね」
「! ありがとうございます。困ったことがあれば、なんでも聞いてください」

 ウェイターが二つのエスプレッソを持ってきた。ナマエが少し会釈すれば、ウェイターはさっと帰っていく。何かしただろうか、とナマエが思っていれば、フラダリがまた口を開いた。

「もう一つ、なんですが」

 フラダリは一枚のカードを取り出してナマエに手渡す。炎のマークが書かれたそれにナマエは首を傾げた。




 エレベーターに乗り、博士がいるであろう部屋へ向かう。要件が過ぎた後、フラダリと本の話になってしまい、思ったより会話が弾んでしまった。エレベーターが止まり、ナマエがプラターヌの元へ駆けつけるとプラターヌと五人の子供がいる。

「遅かったじゃないか! ナマエちゃん!」
「ごめんなさい、つい、」

 子供の視線がナマエに向く。プラターヌは笑いながら五人に声をかけた。

「彼女はナマエ。さっき話してた子だよ。よろしくしてあげてほしいな」

 プラターヌの言葉に、五人が元気良く返事をした。その中の女の子二人がナマエに駆け寄る。

「私、サナっていうの! よろしくね!」
「私はセレナ。よろしく!」

 明るい女の子だ、なんて思いながらナマエは「ナマエです、よろしくお願いします」という。二人は顔を見合わせて、「女の子同士なんだから、敬語はなしだよ!」とにっこりと笑った。すこし渋ったナマエも結局は押しに負けて頷いたのだが。

「ナマエちゃん、紹介するね!」

 サナとセレナがナマエの片手ずつをとって、残りの三人の前に連れてきた。

「まず、帽子をかぶってるのが、カルム」
「よろしく」
「次に、ちょっと大きいのがティエルノ」
「よろしくね!」
「で、最後にちょっと小さいのがトロバだよ」
「よろしくお願いします」

 ナマエはとりあえず、よろしく、と返事をする。

「私たち、ナマエちゃんの初めてのお友達だね!」

 無邪気に笑ったサナに、ナマエはなんとも言えない複雑な気持ちになった。記憶喪失である、という建前がある以上、拒否ができないのだが。
 それを見てプラターヌはニコニコと笑っていた。