世界の中心がボスになるまで(6)
「ヨーロッパ、といえば、ナマエも欧州出身だったな」
「あー、うん」
いきなり降られた会話にナマエは適当な返事をする。ボスに連れられて来た先には、カズやらパスやらいつも何故か集まっているメンバーがいた。ナマエは周りの会話を適当に受け流しつつ、どこから手にいれたのかわからないが、ボスから貰った漫画を読んでいた。たぶん、セシールの故郷の話をしていたのだろう。思いがけない飛び火だ。とりあえず、漫画から顔をあげれば周りの視線がこちらに向いていた、
「本当!?」
「うん、」
「どこ!? どこ!?」
「欧州って言っても東欧だよ」
「東欧……」
「さらに言えばソ連の一地域だね」
今はどうか知らないけど
たんたんと答えるナマエにあたりは(といっともカズとセシールだが)は固まる。ナマエはまた漫画に目線を落とした。
「ソ連にいたのか?」
「うん」
「よくアメリカのボスと仲良くなれたな……」
「あぁ、それは成り行き」
「成り行き?」
パスが首を傾げる。ボスは溜め息をついていたが。
「処刑されそうな時にボスに連れ出された」
「救い出した、といって欲しいな」
「私は別に死んでもよかったから、連れ出されたの方が正しい」
「死にたかったのか?」
チコが眉をさげながら尋ねる。
ナマエは顔をあげずに答える。
「どっちでもよかった」
「どっちでもよかったって! 生きたくても死ぬ人がこの世界には五万といるのよ!?」
「そうだね、セシール。でも、私はそう思わなかった。事実、私より生を望んだ人間も私の近くで沢山死んでる」
「そもそも、何故処刑なんて……」
「ソ連から独立しようっていう所にいたんだけど、そこのボスより活躍したからじゃない?」
ぱたん、とナマエは漫画を閉じる。
「負けたの?」
「いや、勝った」
アマンダの質問に答えたのはボスだ。ナマエは違う雑誌をとりだし、そちらを読み始める。カズがボスを見て尋ねる。
「ボスもそこにいたのか?」
「あぁ、成り行きでな。過酷をしいられてはいたが、勝った。ナマエは裏切ってはいない。活躍はむしろ、アメリカなら名誉ものだろう」
「じゃあ、なぜ?」
パスがまた首を傾げた。
今度はナナマエが答える。
「彼等の掲げた理想と現実があまりにも違うかったから」
「……」
「実際の世界は、彼等の掲げた理想よりも残虐だった。サンディニスタのように、しっかりした思念なんてなかった。学者が唱えた机上の空論が実際には違っていたわけだ。私はその罪をなすりつけられたってわけ」
「そんな、」
「酷い、と思う? 私はそうは思わなかった。だって、そうしなければ、彼等は自分達の行為を正当化できなかったんだ。私は彼等を哀れだと思ったけどね」
「哀れだと思ったから、黙って処刑されようとしたの?」
「それで国が救われる。今度は一の犠牲ですむ。しかも――」
「ナマエ」
ボスに言葉を遮られ、ナマエは雑誌から顔をあげた。ナマエはなんとなくだが、彼が怒っているように感じた。ボスはその怒りを抑えるように、溜め息をつく。
「まぁ、結局死なずにボスに引き取られたわけですけど。国には何も思いはなかった。だから、私は国を捨てた」
名前も一緒に、とナマエは口の中で呟いた。パスがいる以上、モブではあるが偽名だとかそういう話題はあまり出したくないものだ、と思っている。
「親は? 親はどうしたの?」
「殺されたよ。同じ軍の奴らにね」
「どうして、だ?」
「親は独立に反対していたからね。見せしめじゃないかな」
「ナマエは、」
先ほどから黙っていたヒューイが口を開いた。
「ナマエは、悲しくないのかい?」
ヒューイの言葉にナマエは、そういえば、と思った。悲しくは、なかった気がする。昔も、今も。いや、悲しくはないとは語弊だ。悲しいのは悲しかったが、どこか、遠く思えたのだ。まるで、それが紙面に書かれた物語のような。
「そんなに」
「そんなにって、肉親でしょ?」
「うん。でも、私は泣かなかった」
あぁ、死んでしまった。
本当にそんな感じだった。アマンダやチコ、セシールは顔を顰める。いや、話を聞いていた人の殆どが顔をしかめていた。
「君はまるでAIみたいだな」
「そうだね、Dr.ストレンジ」
ストレンジラブが言おうとしているのは、ナマエの感情が欠乏している、ということだろう。ナマエは顔をあげボスをみた。
「ボス、原因がわかったよ。私の素行の」
「あぁ、俺も何と無くだがわかった。ナマエは、感情的になれないんだろう? 自分を含めて、この世界で起こる、あらゆることに」
「そう、それ」
ノック音が数回する。ボスが声をかければ、扉が開いた。顔をのぞかせたのは医療班の一人である。
「ナマエさんはいますか?」
「ここにいるよー」
「すいません、薬品についてちょっと……」
「はいはーい。じゃ、お先に失礼しますね」
ナマエはそういうと、漫画と雑誌を持ち部下である医療班の兵士について行った。暫く沈黙が続いたが、ボスが盛大な溜め息をつく。それを皮切りに、周りはまたしゃべり始めた。