世界は一人の為に回るか否か(9)
ナマエが目を覚ますと、何処ぞのお姫様のようなベッドの上にいた。グワングワンする頭を抱えて起き上がろうとするが、イマイチ焦点が定まっていない為にまたベッドの上に倒れこんだ。
「なにが、」
何が、あったっけ。鈍い思考を働かせようとするが、頭は働いてくれない。それどころか、もう一度眠りにつこうとする程だ。
自動扉が開く音がして、ナマエはどろりとした視線をそちらへ向ける。入ってきたフラダリは些か驚いた様子で「もう目覚めたのですね」とナマエに告げた。
「フラ、ダリ、さん、? ここ、は?」
「安心してください。ここは私の研究所です」
そう告げてベッドの端に腰掛けるフラダリは、ナマエの手を取った。ナマエはぼうっとしたままフラダリを見上げる。
「時が来れば、貴女を迎えに来ます。美しい世界の誕生をともに見守りたいのです」
「うつく、し?」
「ええ。だから、貴女はまだ眠っていてください。眠るまで、そばにいましょう」
フラダリがそう言ったのが聞こえて、またナマエは眠気の波に襲われる。五分もしないうちに、ナマエはまた眠りに落ちた。
「――ナマエちゃん、おきて! 起きてってば!」
グラグラと体を揺すられてナマエはゆっくりと目を開いた。先ほどとは違い頭の中はスッキリしている。だからこそ、視界に入った子供達の名を呼ぶことができた。
「セレナと、カルム?」
「よかったぁ! 死んだように寝てるんだもん」
そう言って抱きついて来たセレナを抱きとめて、ナマエはキョロキョロと辺りを見渡した。ここはどこだ。いや、フラダリさんには研究所の一室、のようなことを言われているけれども。お姫様のようなベッドに、センスがいいアンティーク調の家具が揃っている。ナマエはため息をつきたくなった。
「ったく、ビックリしたよ。フレア団の基地に乗り込んで探ってたらナマエが寝ていたんだから」
「フレア団の基地?」
「そう!」
「フラダリさんの、研究所ではなく?」
「そのフラダリさんがフレア団のボスだったのよ!」
「え、っと、?」
「セレナ、ダメだ。ナマエは混乱してる。ナマエはどうしてここにいるんだ?」
「どうして……ヒャッコクシティでフラダリさんにミアレシティに来るように言われて」
ヒャッコクシティについてすぐ、フラダリからナマエ連絡が入った。ミアレシティのフラダリカフェに来て欲しいという旨のそれに、ナマエはリザードンに乗ってミアレシティのフラダリカフェまで戻った。何時ものようにエスプレッソをだされ、何気ない会話から本題に入ろうとした時。猛烈な眠気がナマエを襲った。頭を抱えたナマエを他所に、フラダリは、「準備は殆ど整って来ました」などと話す。そして、今にも倒れそうなナマエに気づき「大丈夫ですか?」と尋ね、ナマエを支えた。そこでナマエの記憶はブラックアウトだ。途中目覚めてフラダリがこの部屋に来た覚えはあるものの、それ以外の記憶はない。
と、いうことは。
「やられた」
ナマエが眉を顰めたのを見て二人が首を傾げる。この症状に記憶はある。この世界にあるかは知らないが、クロロホルムに似た薬剤、一般的に睡眠薬と言われるそれのせいだろう。そう、あのエスプレッソに盛られたのである。しかし、何故フラダリがナマエにそうしたのかは疑問だ。
「ナマエちゃん? 大丈夫?」
「私、ちょっとフラダリさんに会いに行ってくる」
「俺もいくよ!」
「私も! ここまで来て下がってられないもの!」
そう意気揚々と告げた二人にナマエはなんとも言えなくなった。危ないから、と言っても引き下がってくれないのだろうな、とナマエは結論をだして「よろしく」とだけ笑っておいた。