世界は一人の為に回るか否か(10)



 ナマエ達と対峙にしたフラダリはあまり機嫌がよろしくないように見えた。ナマエもナマエで眉間に皺を寄せているのだから、相手にもそう見られていることだろう、とナマエは思う。セレナとカルムの制止をふりきり、ナマエはフラダリの前に立った。ポケモンを取り出さない彼はどうやら、ナマエと戦う気は無いらしい。

「迎えにいく、と言ったはずでしょう?」
「えぇ、でも、貴方が何をしようとしているのか、とか、貴方が何故私を眠らせてここに連れて来たのか、だとかいつの間に着替えたのだとか知りたくて」
「それは全てが終わった後でお話します。後、着替えさせたのは女幹部ですよ」

 ナマエとしては、ユーモアとして最後の質問をいれたのだが、律儀に答えてくれる彼は本当に真面目らしい。ナマエが今来ているものは黒いドレスに似たワンピースに、黒いカーディガンだった。双方、かなり大人っぽいデザインである。ワンピースには真っ赤な花のコサージュがついていた。 セレナとサナは仕切りに格好可愛いなどと囃していたが、ナマエとフラダリがこうして並んでみると違和感がないのを見てセレナは顔をしかめた。これでは、まるで、ナマエもフレア団のトップのように見えたからだ。

「いいえ、私には知る権利があるでしょう? 貴方が言う美しい世界とは何なのですか? 貴方は私を選ばれた人だと言うのと何かが関係しているんですか? 貴方は何をしようとしているんですか?」

 ナマエの問いにフラダリは目をつぶるとナマエの手を取った。

「後で説明します。貴方は下がっていてください」

 眉尻を下げてそう告げたフラダリはナマエの一歩前に出てセレナとカルム、そしてサナと向き合った。

「ナマエちゃん? まさか、ナマエちゃんもフレア団の仲間なの?」
「ちが――」
「ええ、彼女はフレア団のものです。勝手に連れ出さないでほしい」

 サナの言葉に否定しようとしたが、それよりはやくフラダリが肯定した。ナマエが呆気に取られていると、三人は顔をしかめた。

「ナマエ! 考えを改めるんだ!」
「そうよ、ナマエちゃん! 騙されちゃダメ! それに、フラダリさん! 貴方はカルムに負けたはずよ!」
「私の勝利は最終兵器を使うこと。君たちが捕まえた伝説のポケモン、返してもらうぞ!」
「最終兵器、?」

 ナマエの呟きは誰にも届かず消える。ナマエがそばを眺めれば、確かに兵器のようなものがあった。フラダリが何をしたいか、そのパズルのピースがナマエの中で当てはまり始める。
 兵器、美しい世界、選ばれた人間。ナマエがハッとしてフラダリに声をかけようとするが、ナマエの前には彼のポケモンがいて進めそうも無い。カルムやセレナとバトルを始めたフラダリにナマエは眉間に皺を寄せた。




 勝負はフラダリの負けだった。フラダリは目をつぶって、唇を噛み締めている。

「フラダリさん、貴方は何を望んでるんですか?」

 ナマエはフラダリの手を引いた。フラダリはナマエを瞳に映すと、口を開いた。

「この世界は醜いものです。世界のビジョンがない人間どもが汚していき、残された希望を奪い合う」
「貴方だけが未来を憂いる必要はない」
「ナマエちゃんの言う通り、みんなが美しい世界をのぞむのが正解だと思う」
「それができるなら、とっくに争いはなくなっている! これから先にあるものは醜く穢れた世界だ!」

 フラダリの言葉に、ナマエは目を伏せた。

「確かに、そうでしょう。みんながみんな、美しい世界を望むなら、とっくに争いはなくなってる」
「……ナマエちゃん、?」
「でも、ですね。私の生まれた国では、美しい世界を望んだ人々が争いをうみました」
「ナマエさん、記憶が……、?」
「フラダリさん、私には貴方にあの学者達のようになって欲しくない。貴方はきっとこの兵器を使うことを躊躇ってる。だからこそ、ポケモンしょうぶをしたんでしょう?」
「それは……」
「それに、酷な話をしますが、もし、貴方がこの兵器を使ったとしても、貴方の理想の世界になるとは限らない」
 だから、

 ナマエはフラダリの手をとった。

「もう、やめてください」
「っ……!」

 フラダリが顔を伏せたのがわかった。ナマエは彼の手を握る。酷なことを言ってしまったのかもしれない、と眉尻を下げた。だが、ナマエが言ったのも事実で。

「……だが、私も引き下がることはできない」

 不意にこぼされた言葉にナマエはじっと彼を見た。三人もフラダリをみる。

「私はフレア団全員の意思を背負っている! 折れるわけにはいかない! エネルギーの殆どは取り出されてしまったが、一度なら使える!」
「やめ、……!」
「待て! やめるんだ!」
「残された力をみせてやる!」
「カルム、サナ、ナマエちゃん! 脱出よ!」
「ああ」
「うん!」
「先に行ってて! 後で追いかける!」

 ナマエがそう叫べば、三人は少し渋ったが駆けていった。グラグラと建物が揺れる。
 フラダリはナマエをちらりと見ると、顔を兵器の方へ向けた。

「逃げてもいいんですよ」
「貴方が逃げるのなら、逃げます」
「……貴方はやはり美しい方だ。全ての人が貴方のような人間ならば争いはなくなるだろうに」
「いえ、私は醜い人間ですよ。……貴方はこの世界を醜いといいますが、私からすればとても美しい世界です。人々が平和に暮らしている、たったのそれだけで」
「……!」
「平和に慣れてしまえば、それが当たり前なのでしょう。ですが、私の日常は平和じゃなかったから」

 フラダリが目を見開いた。今度はナマエが兵器を見た。

「世界は自分の為に回っているわけじゃない。誰かの為に回ってるんだと思います」
「誰かの為に?」
「ええ、フレア団、とやらの世界の中心はきっと貴方でしょう。だから、貴方は死んではいけない。彼らを導かなければいけない」
「ナマエさんの、世界の中心は、?」
「……秘密です」

 ナマエがそう言って笑えば、フラダリは困ったように笑った。

「兵器の光を浴びれば、不老不死になるといいます」
「不老不死になった貴方は、世界を美しくしなければなりませんね。私も手伝いましょう、このままいくと不老不死ですから」

 ナマエが肩をすくめれば、フラダリは笑う。

「では、貴女には私の世界の中心になっていただきましょう」

 その言葉にナマエが何か返す前に、ナマエの視界は真っ白に包まれた。



 世界は一人の為に回るか否か
 「自分の為」ではなく「誰かの為」に回るのです。