世界の中心がボスになるまで(7)
スネーク、あるいはボスと呼ばれる男は人しれず溜め息を落とした。と、いうのも、話し合いの結果が頭に渦巻いているからである。
話し合いというのは、昨日、ナマエがあの場を去ってから行われたそれでセシールやヒューイなど多くの人間があれ――ナマエが感情的になれないことは治すべきだ、と発言したことから始まったものである。彼自身も彼女の癖のようなそれは治したかったので、そこまではよかった。だが、問題はやり方である。
――恋をすれば、いいんじゃない?
セシールの考えは実に女性らしかった。それまで、「彼女のアレは治さないほうがいい、彼女の良い所だから」と言っていたストレンジラブもその案に面白半分で乗っかり、周りも賛同したのだ。で、だ。問題は相手である。MSFは軍隊なので、男手は多い。しかし、知らない人間は女性陣によって却下され、チコも幼いから却下、ヒューイも思い人がいるから却下、と選択肢が縮められ、ついにはボスかカズかという選択肢になってしまった。
「スネークがいいんじゃないか?」
「あら、いいの? カズヒラさん」
「ナマエには手を出すな、とボスが」
セシールからの疑問に、ニヤリとカズは笑いながらボスをみる。確かに言った。
確かに言ったが、あれは、恋愛的なものでは――
ボスはそう弁解しようとするが、話はボスとナマエの話になり、セシールの「スネーク、頑張ってね」なんていうセリフでそのままお開きになってしまった。もう一度、ボスが溜め息をつく。
「あんまり溜め息をつくと幸せが逃げますよ」
ボスは後ろから声をかけられ、振り向けば件の人物であるナマエだ。手には書類を持っている。
「今からお持ちしようと思っていたんす」
「あぁ、受け取ろう」
「皆さん病状は回復に向かってるので、来週には復帰できるはずです」
「そうか」
「……ボス、」
「ん?」
「どうかしましたか?」
ナマエが首を傾げる。髪がサラサラと流れた。ボスは一瞬息を詰めたが、目を泳がす。
「いや、」
「今日、なんか様子が変ですよ?」
失礼、とナマエはボスの額につけられたバンダナの上から手を当てた。気まずそうにボスはまた目を泳がすが、ナマエは気づかず手をおろした。
「すこし、あついかもしれません。しんどくなったら医務室にきてくださいね」
「あぁ、」
「貴方が倒れてしまうと、この組織の回りが悪くなってしまうんですから、無理しないでください、スネーク」
ナマエはそう言って、またきた道を帰って行く。
″スネーク″。彼女はボスのことをあまりそう呼ばない。なぜなら、彼がその名を捨てたと知っているからだ。しかし、呼んだ。それは彼女の悪戯ごころかもしれないし、念を押すためなのかもしれない。いや、おそらく後者だろう。
ボスは口元に手をあて、ナマエの後ろ姿を見送る。
――これは、大変なことになった。
彼はここまできて自分のそれに気づかないほど子供ではない。だが、すんなりとも受け入れられない。自分と彼女の年齢がだいたい二周りが程違うからだ。彼女の保護者であったはずなのに。
ボスはまた溜め息をつく。
――どうやら、俺はナマエが好きらしい。