世界の中心がボスになるまで(8)
「ナマエ、」
ボスに呼びかけられ、ナマエは書類から目を離して振り向く。彼はどことなく照れたように笑いながら、「海に行かないか」と提案した。
それは、ピースウォーカー事件が解決し、彼が「何か」から――恐らく「ザ・ボス」という括りから解放されて暫くたった後だった。
「海、ですか?」
「最近は、話せていなかっただろう?」
「はぁ、まぁ、いいですけど」
ナマエがそう了承すると、「また迎えにくる」と言って立ち去る。一体なんなのだ、と首を傾げるナマエにボスとすれ違うようにパスが入ってきた。それを見て、ナマエは「ゲームではパスと行くはずじゃなかったけ?」と思ったが、とりあえずパスに椅子に座るよう促す。パスはそれに従った。
ナマエとパスは結構仲がいい。それは、″原作″をしる彼女が悲しい結末を持つパスへ向ける多少の考慮の結果でもあるし、パスがナマエに心を許した結果でもある。
「ナマエ、」
「どうしたの? パス」
「もし、ね。もし、自分が立ち去らなきゃならなくなったらどうする?」
パスの質問に、ナマエはキョトンとした表情をした。
「ここを?」
「ええ」
「自分の意志なのか、脅されたのかによるかなぁ。どちらにせよ、ボスに話は通すけどね。まぁ、パスが自分の意志でここから出たいのなら私は止めないし、誰かに脅されたようなそれなら止めるよ」
パスの肩がピクリと揺れた。パスが何かまた話そうとした時、また響いたノックの音にパスは驚いて立ち上がる。そしてまたすれ違いざまに出て行ってしまった。入って来たのは先ほど出て行ったボスなのだが、ボスは彼女が出て行ったのを見るとナマエを見る。
「……どういうことだ?」
「どういうことも、聞こうとした瞬間に入ってくるんですから」
――嘘だ。私は知っている。
しかし、何故かいい出せなくてナマエはそう告げた。
「それは、悪かった」
「パス、何かに脅されてる気がします。何か、はよくわかりませんが。今は私を気にかけるより、彼女を気にかけてあげてください」
それが、原作を知るナマエの最大の譲歩だった。ここで、もし、パスがサイファーと呼ばれる組織に脅されていると言えたなら。未来はきっと変わるのだろう。しかし、言えない。きっとそれは、パスの口から言わないと意味がないことで、私がいってもなぜ知っている、と言われるだろう。疑われるのはいい。でも、居づらくなるのは嫌だ。そう、保身だ。
「あぁ、できるだけそうしよう。ナマエもパスにできるだけそばにいてやってくれ」
ボスの言葉に、わかりました、と相槌をうつ。なんて嫌な性格なのだろう。私は。そんな少しの自己嫌悪を隠して。