世界の中心がボスになるまで(9)
――パスが、消えた。
″原作″通り海に落ちて、消えてしまった。
ナマエはぼんやりと、パスが落ちた場所を見つめる。そこには人影なんかなく、ただ揺れる波だけが見えた。マザーベースはパスが起動したジークとボスとの戦闘の後処理に追われていて、騒がしい。ナマエは無意識に足を踏み出そうとして、誰かに止められた。
「ナマエ」
腕をつかんで止めたのは、ボスだ。満身創痍、というわけではなく、所々傷をおっている彼は、眉を潜めながら、ぎゅっとナマエの腕を握る手に力を入れた。
「ここから落ちれば、一溜まりもないぞ」
「わかってますよ、そんなの」
「でも、足を踏み出そうとしていた」
「無意識です」
「ナマエ」
「……私ね、きっとパスを止められたんです」
そう、止められた。知っていたのだから、止められた筈なのだ。なのに、私は。
「パスは私に相談してくれていた。彼女は泣きそうだった、きっと、彼女はここにいたかったのに!」
怒鳴るように、吐き捨てるように言うナマエに、周りは何事か、とナマエとボスの方を向く。
「私は、彼女を、救えなかった」
自分の保身をとってしまった。最悪だ。もし、ナマエが漫画やアニメのヒーローや、ボスみたいだったら、きっとパスを止めただろう。でも、それができなかったのは、自分が弱かったからだ。
ボスはナマエに優しく声をかけた。
「ナマエ、もういい。自分を責めるな。俺だって救えた筈だ」
「でも!」
ナマエは睨むようにボスを見る。泣きそうな顔だ。ボスは驚いたようにそれをみると、宥めるようにナマエを抱きしめた。
「でも、でも、私は、」
パスを見捨てたんです
ナマエの頬に涙が伝う。
ナマエがこう思うのも仕方が無いことだ、とボスは思っていた。ここ、二週間程、このマザーベースでは風邪が流行っていた。ナマエはその診察に日夜追われ、パスと余り話せていなかったようだ。あの「助けて」という会話以来。きっとあれがパスのSOSだった。ボスと呼ばれる自分より、ナマエを信用していたからこその。
「ナマエ、パスならきっと大丈夫だ」
「っ、」
「大丈夫だ、絶対に」
「ぅあ、ぅわぁぁぁ、」
ぽんぽん、と幼い子をあやすようにボスはナマエの背中を軽く叩いた。ナマエは小さい子どものように泣いた。それは、″この世界″ではじめてナマエが涙を流した日だった。