さよならを告げなかったのは彼の最後の優しさでした




 嘘だ、嘘だ、嘘だ!
 ナマエは目の前にある死体に絶望していた。冷たくなったそれはピクリとも動かない。

「嘘だ、嘘だ、嘘だ、ジョージが死ぬだなんで」

 目の前にあるのは事実だ。元大統領のジョージ=シアーズは、銀髪の、ジャックに殺された。愛国者によって殺された。
 あのほんわかした日々や、ふざけあった日々は帰ってこない。ボロボロとナマエは涙を零す。ジョージを失うのは、長年ずっと、まるで相棒、いや、相棒以上の関係でいたナマエにとっては辛すぎる。ぬいぐるみを抱きしめて縮こまるようにソファに丸まった。帰ってきた死体は偽物だろうと、何日も何日もジョージ、いやソリダスが帰ってくるのを待った。

 ある日、数回のノック音がした。そのころにはもう、何も飲まず食わずだったナマエの意識はぼんやりとしていて、ただ視線をそちらに向けることしかできなかったが。
扉が開き、一人の男が現れる。サイボーグだ。あんなの、見たことがない。いや、見たことはある気がする。誰だっけ。どうでもいい。

「ナマエ=シアーズ。あの男の、娘」

 サイボーグは私をみる。何処か憐れんだような瞳だ。彼は私をやすやすと抱き上げる。やだ、連れて行かないで。今までここにきた奴らにしたのと同じように叫びたいのに叫べない。ぬいぐるみと小さなペンダントをぎゅうと握り締めれば、男は駆け出した。上下に揺れる振動に目を閉じる。眠気が、襲ってきた。

 目が覚めた時、そこは何処かの飛行機のようだった。簡素なベッドや簡素なキッチンが目に入る。そして、自分に繋がれたチューブも。誰かが小さい子供をあやす声と、それに乗じて階段を上ってくる足音が聞こえ、ナマエはそちらに目を向けた。壮年の男はタバコを取り出すと、ライターで火を付ける。そして、ナマエの視線に気づいたのかすぐにそれを灰皿に押し付け、下に向けて「オタコン!」と叫んだ。ソリダスと、ジョージと、同じ声だ。ナマエはぶるり、と体を震わせる。近づいてきた男は両目が健在で、違う人物だとわかり落胆した。

「体の具合はどうだ?」
「楽、……誰?」
「……スネークだ」

 スネーク。ナマエは理解した。成る程、だから、声が似ていたのか。ナマエはゆっくりと片手をさしだした。

「本当は″はじめまして″、ではないけれど、はじめまして、私の兄弟」

 スネークは目を見開く。やはり、知らなかったのか、彼は、だなんて思いながら戸惑いながら差し出された手を握る。温かい。


「どうい――」
「スネーク、よんだかい?」
「……オタコン」
「あぁ! 目が覚めたんだね! よかったよ!」

 バタバタと騒がしく近づいてくる男にスネークはため息をつく。具合はどう? 楽、だなんて先ほどと同じ会話を繰り広げた。

「僕の名前はハル=エメリッヒ。オタコンって呼んでくれ。で、こっちが――」
「さっき名乗った」
「そうなのかい? 待ってくれればいいのに。あ、君の名前は?」
「ナマエ=シアーズ」
「シアーズだって?」
「ソリダス・スネークの養子だよ」

 その言葉に二人は瞬いた。ナマエは一息ついてから、また口を開く。

「ソリダス・スネークとは兄弟でもあるし、貴方とも兄弟ね」
「スネークと兄弟?」
「私も計画によって生まれた人。貴方とリキッドと一緒に産まれた。同い年なんだよ、面白いね、ここまで容姿が違うのに」
「冗談はよした方がいいよ、ナマエちゃん」
「冗談なんかじゃない。私は成長が止まってる、十歳で。人の倍で年を取るスネーク達の副作用のようなモノ。その証拠として、スネークは同じ姿の私に出会ってる。数十年前に」

 私の言葉に、スネークは動きをとめた。思いあたりがあるらしい。

「あの、時の、?」
「あの時、がいつかはしらないけど、隣にビッグボスがいたなら私。詳しくはハッキングしてください」

 スネークはため息をつく。そして、頭を抱えた。そして小さく、雷電、どうして連れてきたんだ、と呟いた。そしてオタコンと会話をしている。私はそれを聞きながらぬいぐるみに抱きついた。

「……ソリダスに、会いたい」

 その言葉に二人が振り向いてびっくりしたのは別の話。