数年もすれば俺は彼女を憎んだ。彼女があんなことを言わなければ、俺は道を踏み外さなかったのだと。俺は彼女を嫌ったまま、彼女の幻影を振り切って生きて行けたのだと。何処に行ってもつきまとう彼女の幻影をやっと振りほどけたのは――いや、彼女以上に憎みいがみ合う相手ができたからだろう。数年、数十年。時がたつにつれ、彼女の声が思い出せなくなる。彼女の思い出が消えていく。そんな中、時折見る夢がある。彼女があの花畑の中に立っている夢だ。彼女が俺に微笑む夢だ。ああ、愛おしい、と彼女に手を伸ばすところで夢は覚める。
――でも、今回はそうじゃない。あぁ、やっと死ねるのだ。彼女の元に行けるのだ。
彼女の墓にもたれかかり、自分そっくりな「息子」を見る。やっと、ハルの元へいけるのだ。そう思えば、死ぬことが何も怖くなかった。むしろ、幸福に思えたのである。
――年老いた俺を、彼女は待ってくれているのだろうか。
真っ白に染まっていく意識に、俺は小さく笑みを浮かべた。
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