私はどうやら、事故にあっていたらしい。それも大きな事故で、私は重傷をおい数ヶ月間意識を飛ばしていた。私は目覚めてから、昔のような「普通の」高校生に戻れた――わけではなく、現実のような夢のお陰で、性格が変わっただのなんだのと言われた。何よりも、英語を含む多国語を喋れるようになっていたし(しかも、日本語よりも英語が咄嗟にでるようになっていた)、身体能力も夢と全く同じ。これには医者も首を傾げるばかりだった。私がとぼけたふりをしているかもしれないが。
そんな私は、無事に高校を卒業し大学生になった。家からは離れている大学で、広めの庭付きマンションで一人暮らしをしている。こんな暮らしができるのはらたまたま親と一緒に買った宝くじが当たった恩恵である。庭には真っ白なオオアマナがあの場所のように咲き誇っていて、私の自慢の庭だった。そんな庭を眺めながら、あの夢の思い出に浸るのだ。
目新しいこともなく、平和に過ぎ去っていく毎日に嫌気がさしたころ、それは起きた。
朝だ。まだ、空が明るみ始めたころ、早朝と呼ばれるような時間である。ドサリと庭に何かが落ちた音で、私は目覚めた。私は咄嗟に近くにおいていたナイフを構え、警戒しながら庭に降りる。真っ白なオオアマナをすこしかき分けた先に、見慣れないベージュ色のコートが見えた。相手は動かない。
私は違和感を覚えて、ゆっくりそれに近寄る。そして、それが男性だと理解する。ベージュ色のコート。ワイシャツ。黒い手袋。ブラウンの髪に、同色の髭。黒い眼帯。
「――ジャック?」
嘘だろう、かれは、別次元の人間で――。
私は慌ててジャックの呼吸を確認する。スゥスゥと、眠ったように呼吸をする彼を軽く揺すった。*
「ジャック、」
「……――」
「起きろ、ジャック!」
「……」
「Wake up, John!!」
私の声に、ジャックはゆっくりとまぶたを開く。青い瞳が左右に揺れ、私のほうをみた。
「ハル、」
ゆっくりと手を伸ばし、彼は私の頬を撫でる。
「……やっと、会えた」
「っ、」
「これからはずっと一緒だ、」
彼の瞳が、ゆっくりとまた閉じていく。私はただ呆然と彼の寝顔を見つめた。*
――あの出来事は、本当に、夢?
彼を運びソファに寝かして、彼を見つめる。ベージュ色のコートには、フォックスハウンドと書かれているワッペンがついている。
あり得ない。あり得ないはすである。だって、あの世界は、架空の世界で、私の夢の世界で、あの任務も、あの気持ちも全部が全部夢で。
混乱する思考をよそに、感情とは体とは素直なもので、ポロリ、と私の目から涙が零れてきた。それがどういう感情のものか、だなんて理解している。
「じゃっく、」
会いたかった。また、会えて、よかった。
ごしごしと乱暴に涙を拭いて、私は立ち上がる。きっと、起きればお腹をすかせるに違いない。だから、朝食でもつくっておこう。そうして、話せばいい。謝ればいい。許してくれるかなんて、わからないが。
――どちらが現実かなんて、わかりそうもない。ただ、彼に会えた、それだけが堪らなく幸福だった。
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