「ハル!」
ソ連のかの地で、吊り橋に立つ。聞こえた声にそちらを見れば、ジャックは目を見開いて嬉しそうに笑みを浮かべていた。その笑みをかき消すために、私は目を伏せる。ついにこの日がきた。痛む心臓を抑えつけて、私は演じなければいけない。隣に立っている男はジャックを見て――私を見下ろした。
「ハル、知り合いか?」
「……同じザ・ボスの弟子だ」
「ほう、面白いものだな。同じ弟子でも、こうも違うとは」
男は私の腰を抱く。私はジャックから目線を外し、男を見た。男は優越感に浸った笑みをジャックに向ける。
「片方は科学者の亡命に手を貸し、もう片方はソ連に亡命、か」
「亡命? どういうことだ?」
「どういうことも、なにもない。こういうことだよ、スネーク」
男から離れ、油断している彼にCQCをしかける。不意のことで倒れこんだ彼は大きく目を見開くと、 私を仰ぎ見た。何時ものじゃれ合いなんかではない。ここから先は命のやりとりだ。
「――私はソ連に亡命した」
「どうして、」
ジャックは心底不思議そうな顔をしていた。私はただ表情を消して彼を見下ろす。
「どうして? それはくだらない問いだな。私は元からアメリカ人ではないんだ。何処についてもおかしくはないだろう?」
ジャックを思いっきり踏みつける。その痛みでジャックは呻いた。
「私はあの国が嫌いなんだ。思想も、行動も気にくわない。だから、亡命した、それだけだよ」
彼の持っていた銃も全て分解し、手招きする男に近づく。男はジャックを見下すと、私にキスをした。嘘だろう、嘘だと言ってくれ、そういう表情を浮かべたジャックが、私を見る。私はそれを見て、口端を上げた。
「あぁ、ジャック。それと、」
―― 私は君が大嫌いだ。昔からずっと。
決定的だったんだろう。見下したようにそういえば、彼はどこか絶望した表情に変わった。何も持たず、ただ、泣きそうな表情で向かってくる彼を「原作のように」川へ落とす。これできっと彼は私を連れ戻そうなんて思わない。いや、もとよりそんな気はないかもしれない。自分の思考が嫌になって自嘲する。私に手を伸ばした男の手をすり抜け、コブラ部隊の彼らを見た。彼らもまた私を見たのだけど。*
「あの娘がデカくなったものだな、昔のボスのようだ」
「お前のことは、クラウディアと同じようにヘイトと呼ぼう。『嫌悪』。それがお前に相応しい名だ」
ヘリに乗り込めば、そこからはゲームと同じだ。いや、違う。私が、ボスの変わりにここにいる点を除けば、何もかも同じ。男――ヴォルギンは核を放ったし、私はジャックに手を伸ばす。そう、登場人物が代ったというのに何もかも同じ道筋だった。*
――ジャックのあの顔が、頭から離れない。あの、絶望したような、ショックを受けたような顔が。それをかき消すように、これでいいんだ、これで、と言い聞かせる。ジャックとボスは生き残る。死ぬのは、私だけだ。二人が生きているなら、それで、きっと、この世界は。彼は。
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