なれない隣の気配に、身じろぎをする。
 今までのことが、全て夢ならばいいのに。ずっと頭から離れないあの表情を消すように、頭を抱えながら怠い体を起き上がらせる。男が私を起き上がったことで起きたのか、ゆっくりと目を開けた。
「まだ寝ていても大丈夫だろう、貴方はここの一番の上官なんだから」
「……あぁ、」
 そう返事しながらも私の手をひき、私を寝転ばせると男は満足そうに笑う。そして、キスを落とした。私はただ、瞳を閉じ、彼の行為に我慢をする。これが、ジャックなら――ジョンとの行為なら。一瞬よぎった考えを打ち消したくて、縋るように男に視線を送る。男は笑みを深くした。
 しかし、不意に響いた数回のノック音に、それは止まる。男は舌打ちをすると、扉を開ける。そこには若い男がいて、若い男はこちらを睨みつけるような視線を送ってきた。会話を聞く限り、恋仲のようだが、それはどうでもいい。私は服を整えると、彼の隣に立つ。
「大事な話なんだろう? 私がいては邪魔そうだし、コブラ部隊と話してくる」
 そう一言、笑みを浮かべて告げれば二人は満更でもない表情で笑った。後は二人でごゆっくり。私はとりあえず部屋を後にして、長い廊下をいく。何処かで誰かとは会えるだろう。目的の物の位置もわかっている、し、なによりその目的の物を最後に持つのは山猫でなければならない。そう考えると山猫とも仲良くした方が良いのだろう。投げ飛ばしてしまったが、大丈夫だっただろうか。少し感じた気配に足を止めて周りを見る。感じた些細な気配を辿れば、そこにはフィアーとよばれる男性がいた。気配が薄い。彼は私を見ると口を開く。
「ヘイト」
「フィアーさん、ちょうどよかった。貴方達に話が聞きたくて」
「ほう、」
「父の――クラウディアさんのことを教えていただけませんか?」
 彼は私の言葉に「いいだろう」と頷いた。
 そこからは沢山、クラウディアさんのことを聞いた。あの人は部隊の中で一番年下で、戦争をいつも嫌悪していた。だから、コードネームがヘイト〈hate〉なのだとか、飛行機も戦車もなんでも操縦できたとか、私を拾った時は珍しく強気だったとか沢山だ。
 しばらく話せば、時間になったのか男からお呼びがかかった。誰か、何者かが、潜入してきたらしい。 十中八九、ジャックだろう。そろそろ、タチアナと――エヴァと話さなければならない。私はそう思いながら、目を伏せた。


*


 聞こえてきた足音に、身を縮まらせる。――ばれたのかしら。もし、ばれたのなら。意を決して振り返れば、亡命してきた彼女、いや、スネークが言っていた彼女がたっていた。見かけるたびに何時も無表情な彼女。偶に私をあの大佐から庇ってくれる彼女。主義主張なんかのために国を捨てた彼女。――よくわからない、といってしまえばそうだった。彼女を理解するには関係性が薄すぎるのだ。無線機を隠す私を彼女は無表情に見下ろした。
「――タチアナ、と言ったか」
「え、ええ、」
 私が怯えたように返事をすると、彼女は目を伏せる。そして何かを絞り出すように、何かを願うように口を開く。
「ジャックを、頼む」
 私は言葉に詰まった。
 ――どうして、貴方は彼が嫌いなんでしょう?
 どうしてそんなことを。私が考えている間に、彼女は来た道を戻って行き、別の人が彼女を捕まえた。私はなす術もなく彼女を見つめた。その言葉の意味を尋ねる機会など、ないに等しいのだけども。

6

mokuji