真っ白なオオアマナが咲き誇る丘で、私は一人佇んでいた。ようやく、終わるのだ、この任務が。この人生が。そして、この夢が。彼に殺されて、やっと、私は夢から覚めるのだ。
――ジャックと会えたことは、嬉しかった。彼と過ごせたことも、嬉しかった。そう、私にはそれだけの記憶があればいい。私の、彼の、この任務が終わってもザ・ボスは生きている。きっと、彼らが道を違えることなんてない。彼女がきっと止めてくれる。だから、彼の、彼らの、たくさんの人の運命が狂うこともない。白いオオアマナの花が揺れる。風が花びらを掬っていく。そんな静寂の中、ガサガサという音が聞こえて来た。
私はゆっくりと彼を見た。真白い花畑の中に立つ彼には表情がなかった。潔く、私は嫌われたのだろう。ああ、いけない。最後まで悪役に徹しなければいけない。黙っている彼に、私はゆっくりと口を開く。
「――決着をつけよう、ジャック。どちらが、ザ・ボスの弟子として優れているか」
私が構えれば、彼も構える。
まず先に動いたのはジャックだった。ジャックの動きに、彼の周りに咲いていた花が舞った。その光景が綺麗だ、とても。私は彼の攻撃をよけ、今度は私が攻撃を繰り出す。懐かしい、まるで、ザ・ボスの元にいた頃の――いや、無邪気にじゃれ合っていたあのときのようだった。私が、彼の隣にいた頃の、ような。笑いがこみ上げて来て、すこし笑う。それでもジャックは無表情のまま、私を見ていた。
それから、どれくらい時間がたったのか。それは何時間のようにも感じるし、数十分、いやたったの数分しかたっていないのかもしれない。私は真っ白な世界に倒れこんでいた。体力も限界であるし、右腕左足は折られている。右足もヒビが入っているのかもしれない。それでも、痛みなんて感じなかった。ただ、あの思い出の中にいるように感じたのである。私に向かって銃を構えているジャックを見上げて穏やかに笑いかけた。
「――やっと、死ねる」
昔みたいだ、なんて言葉は伏せた。それはもう、閉まっておくべき物語だ。ぴくり、とジャックの表情が動いた気がした。私は目を伏せ、ジャックが引き金を引くのを待つ。私の愛銃は彼の手元にある。
ぽたり。何かが、水滴が、降ってきたが、私は目を開けない。開けてはいけない。ただ、待つのだ。怖くはない。彼らのために死ぬことは、きっと幸せなんだ。しかしながら、ぽたり、ぽたりと降るしずくは止まらなかった。雨なのだろうか。うっすらと目を開ける。視界がぼやけていた。私は、泣いている。しかし、ジャックも、泣いている。お別れの言葉ぐらいは紡ごうと、穏やかに笑う。
「さよなら、ジャック」
「――ああ、」
――ほんとうは、きみをあいしていたんだよ。
我ながら卑怯である。引き金を引く瞬間に、そんなことを告げるなんて。最後まで、胸に留めておけば良かったのに。そうしたら、彼は私を忘れて生きていけたのに。最後の最後で、本当に。
言葉を言い終えた瞬間、ズドン、と衝撃が頭に走る。思考が止まる。そして、私の視界は黒く染まっていた。
ぴっ、ぴっ、ぴっ、と規則正しい電子音が聞こえる。口には何か、マスクのような物がついている感覚がする。重たいまぶたをゆっくりと開けば、たくさんのコードが見えた。手を動かそうとすれば、隣にいた人が慌ただしく動き始める。ここは、何処なのだろう。視線を彷徨わせて隣をみれば、女性や男性が涙ぐみながら私を見ていた。
「ハル!」
そういって私の手を強く握りしめた二人に、私も応えるように握り返す。ああ、彼女達は――たしか、母と父だ。本当の私の家族だ。
――やはり、あれは夢だったんだ。
私の頬を涙が伝う。
――そう、あれは、ただの、都合のいい、夢だったんだ。
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