10
火祀くんと近宮さんと黒い人
「――遥」
不意に庭先から声がしてそちらを見る。そこにいたのは男性だ。ニコリ、と笑みを浮かべた彼に、チカミヤさんは「一葉兄さん」と反応する。
「どうしてここが?」
「過保護な遙一のおかげと言えばわかるかな?」
「ああ、GPS……」
そう何処か遠い目をした彼女は、もう一度彼を見る。
「一葉兄さん、あの頂いた人形なんですが」
「この前の人形かな?」
「ええ。お相手が見つかったので人にあげても?」
「悲劇の彼女が見つかったのかな?」
「ええ、偶然にも」
「好きにすればいい。それは遥のものだから」
ニコリと笑った彼に、古本屋が首をかしげる。
「悲劇の彼女?」
「血濡れた花嫁衣装をきた人形のことさ。とある豪邸の娘に、幼馴染みの奇術師が贈ったモノだったんだが、不可思議な事件に巻き込まれてしまったらしくてね」
そこでカチリとピースが当てはまるのがわかる。それは、もしかして。
「まぁ、実際はロミオとジュリエット。娘は親に虐げられていて、好きでもないヒトに嫁ぎかけていた。どうやら奇術師が娘を殺したように見せかけて連れ出す予定だったが――負の連鎖が起こってしまったみたいだね。娘が自殺してしまえば、不可思議で魅力的な事件の完成だ」
不敵に笑った彼に、近宮さんは人形を火祀くんに渡した。
「では、名探偵。この人形は貴方に任せましょう」
「元々骨董屋のだろ、これ」
「では、また何処かで。お世話になりました。楽しかったです」
ニコリ、と笑った彼女はそのまま男性に並ぶ。そして、門の方へ消えていった。
「……あの人、あんまり良くない気がする」
アキネちゃんの言葉に、アキネちゃんを見る。近くに悪いもの、が、漂っているわけではない。むしろ、清々しいほどの何もない人だ。でも、わかる。
「ご主人」
そうポケットから顔を覗かせたフールは俺を見上げた。
「近宮様は兎も角、彼とは関わらない方が身の為だと私の勘が申しております」
「普通の人からしたら、クールでカッコイイ人なんだろうけど」
田中さんがしみじみと告げる。詩人が頷いた。
「ただ、彼は淡々としすぎてるんだよねぇ」
「まぁ、あの人は感性も何もかもが普通とはズレ過ぎてるからな。ネジが外れかかってるっていうか」
火祀くんがそう言って人形を眺めた。
「ネジが外れかかってる?」
「淡々としてるけど、まだ人だぞ、あの人は」
「実は妖怪なんですか?」
「そういうわけじゃねぇよ。感性がまだ人だってだけだ」
「えーと……」
「お前にわかりやすく言うと、あの人は情が湧くことは少ない。美しい、だとか、綺麗だ、とかそう言う感性はマニアックな方に向けられてるしな。他人がどうなろうと、自分が追い求めてることを追求できればいい。だから人がどうなろうと関係がない」
「冷徹な人だね。ある意味研究者に向いてるかもしれないけど」
「それを、人らしくしてるのがあの子ってわけだ」
古本屋の言葉に、火祀くんは頷いた。
「まぁ、近宮も根っこの方は似たり寄ったりだけどな。こんなこと言ってる俺も似てるんだろうし」
「そんなことないわよ」
否定したアキネちゃんに、火祀くんは肩をすくめた。
「だといいが」
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