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火祀くんと近宮さんと人形の探し人形


 骨董屋の話を聞いてもちんぷんかんぷんだった。検死の結果、一人一人時間を置いて死んでいる。そして、そこにいた全員が死んでいる。文字ならば整理整頓できるというのに、話を聞いているからか全く整理整頓できていない。

 ――話はこうだ。
 昔、金持ちの家族がその屋敷に暮らしていた。事件が起きた日は、その家族の娘の誕生日。そこに呼ばれたのは同じく名家の御曹司と一人の奇術師だったという。奇術師はパーティ話を盛り上げるために、名家の御曹司はその娘の誕生日を祝いに。それが、全員殺害される結果となるのだから笑えない話である。一番初めに殺されたのは両親、奇術師、そして名家の御曹司が死んで――娘も死んだ。

 火祀くんは事件のファイルを眺めて少し考えているようだ。チラリと人形を持つ彼女を見る。彼女は何処か悲しそうに人形を見ていた。火祀くんは彼女を見ずに口を開く。

「チカミヤ、感情を人形に入れ込むな。お前、人間には感情移入しないくせに、人形にはするのか」
「人間は自発的に動きますからね。それに比べて人形は自発的に動けませんから」

 彼女はそういって、人形を一つ一つ丁寧に拭った。

「残ってた誰かの日記に書かれている死亡順序と、検死の結果が違うな。どう思う?」
「どう思うも何も、検死の方が正しいでしょうね。そこには科学的な根拠がありますから」
「日記が細工されたということ、ですか?」

 チカミヤさんの言葉に長谷が尋ねた。しかし、火祀くんが否定する。

「いや、記されてたのも正しいだろうな」
「えーと?」
「検死の中で、目立つのは?」
「奇術師だ。次いで娘か。まぁ、関係性が不明だと推測でしかないな」
「関係性ならなんとなくわかりますよ」

「まぁなぁ」

 トントン拍子に進む会話に、周りと目を合わせる。

「ちょっと、純、いつもみたいにわかるように説明してよ」

 古本屋の言葉に火祀くんはやれやれというように肩をすくめた。
「日記の死ぬ順番は、娘から始まるんだ。娘、両親、奇術師、御曹司達――で、最後は『誰もいなくなった』。だが、検死結果は両親から始まる。両親、奇術師、御曹司、娘の順だ。そこからある程度察しはつくだろ」
「最初に死んだと思われていた娘は、生きてたのか!」

 そう手をポンと叩いた田中さんに、火祀くんが頷いた。

「なら、その娘が全員を殺したってのか?」
「いいや、それは恐らく違う。殺し方がバラバラすぎる。統一性がない」
「統一性って……」

 苦笑いをした長谷に、覗き込んだ詩人が口を開いた。

「うわー、本当になんでもござれって感じだね。網羅してるよ」
「今は推測でしかできないけど、恐らくは奇術師が最初に娘を殺したように見せかけた」
「見せかけた?」
「ああ、その時代のことや、警察が来れないことを考えるとそれが妥当だろう。そして、奇術師は娘の両親を殺した」
「どうして」
「知るかよ。俺が知ったこっちゃない。そこまで書かれてないんだ。そして、御曹司達に疑われた奇術師が暴行を受けて死に――御曹司達の中の一人が娘に殺された。するとどうなる?」
「どうなるって、えーと……」
「疑心暗鬼になるね。お互いがお互いを殺したんだと思うんじゃないかな」

 詩人の言葉に考える。確かに、誰が犯人か、この中に犯人がいるのは確かで、しかし、自分ではないとわかっている。全員がそうなのだ。疑心暗鬼になるのもわかる。

「ああ、そして、閉鎖的だった原因もあり――お互いがお互いを殺そうとし――残った一人の御曹司は」
「生きていた娘に殺された」
「ということは、娘は自殺したのか」

 画家の言葉に火祀くんは頷いた。

「本当に事実は小説よりも奇なり、だね。動機さえわかればミステリー小説だ」
「これで納得したか? 骨董屋」
「ああ、ならばこの人形は殺していないのか」
「どんな曰く付きなの? 夜な夜な動いて人を殺すとか?」
「ははは、噂ではね。実際は夜な夜な動いていた、というだけだ」
「動くって……!」

 だから、嫌な気配がしたんじゃ……と、チカミヤさんを見る。まりえさんとアキネちゃん、難しい話に飽きたらしいクリとシロが彼女の手元を見ていた。アキネちゃんの顔が少し青ざめているのがわかる。チカミヤさんの表情は変わらないが。

「……貴方の探し他人は私では探せませんよ」
「お前、何してるんだ」
「いえ、掃除もおめかしも終わったので糸をつけたら何故か絡みとられてしまって」

 そう困ったように笑った彼女の手は透明な糸が確かに絡まっていた。ピシッという音がして、彼女の指に血が滲む。

「そんなことをされたって困ります。あと、痛いです」
「淡々ということじゃねぇだろ。鋏は?」
「嫌がってるみたいですよ」
「感情移入しすぎたな」
「そんな淡々と話すことじゃないでしょう!」

 そう怒ったアキネちゃんに、俺はポケットに手を入れる。チカミヤさんが人形を見た。

「昔の男なんて忘れたらどうですか」
「……は?」
「貴女を置いていなくなった男なんて、無視しなさい。人間がいいなら火祀先輩とか」

 そう告げたチカミヤさんに、人形はグルン、と火祀くんを見た。おや、と言ったチカミヤさんとは裏腹に、火祀くんがチカミヤさんの頭を殴る。痛そうである。

「お前な! やめろよ!」
「人形モテキおめでとうございます」
「嬉しくねぇよ!」
「ま、冗談はさておき」

 チカミヤさんはそうため息をついて、カバンから一人の人形を取り出した。それはアンティークな人形だ。黒いドレスコードをきた。それはムクリ、と人のように起き上がる。

「貴方の探し他人は彼ですかね」

 チカミヤさんの言葉にお辞儀をしてみせた人形はまるで王子様のように手を人形に伸ばす。糸が少し緩んだのがわかる。少しずつ、少しずつ。そして、チカミヤさんに巻き付いた糸は解れると、人形は彼女の手から離れた。駆け寄るように黒いドレスコードをきた人形に抱きつくと、抱きつかれた人形はぎゅっと抱きしめるよう動く。
そして――人形は動かなくなった。

「……糸が絡まってる。しかし、切るのはかわいそうですね」

 困ったような言葉だ。

「そっちも曰く付きっスか?」

 そう尋ねた俺に、彼女は首を振った。

「左手」

 火祀くんの指摘に彼女は隠れていた逆の手――左手を出す。そこには十時になった木の棒が握られていた。

「これは?」
「人形を操る道具といいますか」
「マリオネットだね」
「ソレ、どうしたんだ」

 火祀くんの指摘に彼女は肩を竦めた。

「兄が貰ったらしいんですが、『いらないからあげるよ、僕の趣味じゃない』と言われました」
「それどっちだ」
「放浪してる方です」

 彼女の言葉に火祀くんが顔をしかめた。チカミヤさんはそれを無視して、まぁ、と口を開く。

「これも何か運命染みたものだったんでしょうね」


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