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火祀くんと学校の話




「ああ、だから今日は帰りが一緒だったんだね」

 そういった詩人にうなずく。あの鞄いっぱいの薔薇の花はるり子さんによって飾られている。あの鳩と言えば、クリとシロに追いかけ回され今は火祀くんの肩の上に鎮座していた。

「純くんって、浪漫学園に通ってたんだ」
「あれ? 秋音ちゃんも知らなかったの?」
「教えてくれなかったから」

 そう苦笑いした秋音ちゃんに火祀くんが「聞かなかったの間違いだろ」と指摘する。

「でも、全然教えてくれないじゃない。ちょっとくらい教えてくれてもいいのに」
「秋音ちゃん、浪漫学園には王子様と魔法使い、人魚姫がいるらしいよ」

 俺の言葉に周りはきょとんとする。火祀くんは頭を抱えた。

「王子様に魔法使い、人魚姫? ソレはたいそうな名前だね」
「面白そうだから教えてよ」
「あ、でも王子様はなんとなく察せれるね。格好いい人で憧れの的なんだ」

 田中さんの言葉に俺は考える。格好いい人で憧れの的。千晶みたいな人だろうか。

「まぁ、王子も魔法使いも女子の人気を二分してる感はあるな」
「へぇ、やっぱり。いいよね、そういうの。憧れの君っていうのか、なんというか」
「まぁ、両方とも女子生徒だけどな」

 古本屋の言葉にそう切り返した火祀くんに周りはピタリと動きを止める。

「両方とも、」
「女子生徒、?」
「ちょっとまって、女子の人気を女子がかっぱらってるの?」
「男子の立つ瀬がないね!」

 そうケラケラと笑った大人に俺と秋音ちゃんはパチパチと目を瞬いた。火祀くんはスマートフォンをとりだして何か画像を俺たちに見せる。

「右が王子で左が魔法使い」

 その画像には確かに二人の写真が納められていた。童話や映画にでてきそうな王子様と魔法使いの格好をした人の写真だ。

「右って本当に女の子?」
「左はミステリアスな感じだね。でも、女の子に見えるけどな」
「左は言動のせいだろ。右につられてる。右はキザなくさい台詞を吐くから、男子には『勇者』っていわれてる」
「この格好は?」
「演劇部の練習だったんだろ。左が俺のスマホ密かにとって写真でフォルダを埋めやがった。ちなみに人魚姫じゃなくてローレライな」
「ローレライ? 一気に物騒になったね」
「よくわかんねぇけど、俺のダチがローレライにあって数日ショックから立ち直れなかったからそんないいもんじゃないんだろ。声は確かに綺麗なんだけどな」
「声?」
「声楽部の部室から歌声が聞こえてくるんだよ」
「それに誘われて扉を開けると、っていうことかな?」
「でも、数日ショックで立ち直れないってどんな人が歌ってるんですか?」
「さあな、ただうちの学校にはある意味恐れられてる人物がいたりするから、あながちそいつだったとか言う落ちがつきまといそうだな」
 俺は絶対開けないけれど。

 そう告げた火祀くんはお茶をすする。

「その鳩は?」
「魔法使いの手下。嫌がらせの一環に使われた奴」
「嫌がらせ?」
「薔薇の花もな」

 そう言って火祀くんは涼しい顔をして茶菓子に手を伸ばす。秋音ちゃんが火祀くんを見た。

「それって大丈夫なの?」
「別に」
「別にって・・・・・・」
「自業自得って奴だから」

 火祀くんはそう言って鳩をなでた。俺たちは顔を見合わせる。
 それは金曜日の夜のことだ。



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