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火祀くんは名探偵




 それは、まるで小説のように。
 本はスコットランド・ヤードの古い記録であるらしい。迷宮入りが記された本を骨董屋がもらったのだとか。そんなものをもらってもいいのだろうか。
 ――骨董屋が言うに、当時の記録ではこの『人形』がそこにいた人物を殺したのだと言う。外部への接触ができないその場所に集められた人々。警察が突入した時には全員死んでおり、そこにはこの人形があった、わけだ。
人形を見ると、少し嫌な感じがする。無機質なガラスの瞳は誰を写しているのか。不意にガラスに人が映った。彼女――チカミヤさんだ。

「マリオネットですね。可哀想に、服に血がついている。それも一人じゃない」
「え、」
「ああ、この人形は糸を通す場所があるでしょう? こことか」

 そう彼女は何のためらいもなく人形を触った。確かに何かをつけるだろう場所があった。じゃなくて!

「お前な……そっちじゃないだろ」

 呆れてみせた火祀くんは俺をみた。

「黒い染みは血が変色した後だ。色の濃さがマダラだろ? それは一人の血が乾いた後についた証拠」
「あと、向きも違いますからね。多方面から血がかからないとこんな風にはならない」

 そう指摘してみせた彼女は人形を見つめる。
「元は美しい人形だったんでしょう。残念です」
「……あんまり入れ込むなよ」

 人形を見つめるチカミヤさんに、火祀くんは釘を刺した。相変わらず人形は無機質な瞳で彼女を見つめたままだ。それは、何か縋るようでもある。

 ――彼女を?

 ガラスの瞳には俺も映るはずなのだ。でも、そこには、彼女しかいない。
 ぞくり、と嫌な感覚がする。骨董屋が少し目を細めて、彼女を見た。

「気をつけたまえ、魔術師よ。その人形は彷徨うと言われている。誰かを探して、夜な夜な」
「曰く付きってわけだ」
「彼女の探し人は私ではありませんねぇ」

 彼女はそう肩をすくめる。

「探し人?」
「探し人形、でしょうか。事件は探偵さんに任せましょう。この人形はどうするんですか?」
「気に入ったのなら譲ろう」
「気に入るも何も、私はこの子を綺麗にしてあげたいだけですよ」
「なら君に任せよう。気をつけたまえ、君を刺すかもしれんよ」
「まさか」

 そう肩をすくめた彼女はゆっくりと人形を取り出した。アタッシュケースから現れたのは同じような人形だ。そこから彼女は小さなケースを取り出す。裁縫道具らしい。人形がかくん、と力を無くしたようにうなだれたようだった。

「貴方の探し人はいませんよ」

 冗談のようにそう笑って、彼女は先輩を見た。

「先輩、布とかいらないタオルとかありませんか?」
「新しいタオルを持ってくるわ」
「いえ、新しいタオルでなくて――」
「新しいので拭いてあげたいの」

 そういったアキネちゃんに、チカミヤさんは目を瞬く。

「貴女がそれでいいのなら……」
「布ってどんな布?」
「白い布です。レースがあればなお良し、ですね」
「白い布? あった気がする」

 そう言ってまりえさんがかけて行く。その様子を見ていた火祀くんをチカミヤさんはシッシッと追い払った。

「先輩はさっさと事件解決してください。男子禁制です」
「……おー」

 そう返事をした火祀くんは骨董屋を見た。骨董屋は小説の冒頭のように口を開く。

「――それは、酷く悪天候の日のことだ」


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