大海の奇跡05
ついた屋上は当たり前だが人は誰も居ない。
「どうして、地面を歩くものだと思うんでしょうね。警察も盗まれる方も、『彼が奇術師である』ということを忘れてしまっているらしい」
そういって肩をすくめた高遠は「こちらの警察のほうが学習能力がなさそうでいいですね」と愚痴のようなそれを零した。そういや、原作では金田一や明智警視には『マジシャンズ・セレクト』を行っただけで高遠が裏にいると感づかれていた気もする。確かに、学習能力ねぇな、中森警部。
「高遠さん、ヤマト」
アキが何か見つけたらしい。手招きした。そこには、透明のワイヤーと何かが仕込まれている。キッドはこれを使う気、だろうか。でも、これじゃ、空は歩けない。
「アキ、マジックの種を先に見つけてしまっては面白くありませんよ」
「……偶々目に入っただけです」
「そうですね、私も偶々このビルに登ってみたくなっただけですし」
おい、それ偶々じゃねーよ。お前がそういうのは「偶々」ではなく、「必然」だ。
そんなこんなしていると、怪盗キッドがハングライダーにのって現れた。
ふらりと空中でいなくなったそれは、ポン、という音とともに中に現れる。俺達の、目の前の場所に。
「中々魅せるやり方をしてくれますね。お手並み拝見しましょう」
そう告げた高遠は楽しげに口端を上げて、アキは楽しげにキッドを見下ろしていた。ちらり、とコチラを向いたキッドは一瞬目を見開くがすぐにポーカーフェイスに戻る。七、とかかれた大きなヘリがキッドの上にくると、ちかくからカシャンという音が聞こえた。ワイヤーがなくなった音、らしい。警察とコナンが上がってくるが、すぐにワイヤーがないと判断したらしい。コナンは俺の隣に並んだ。
「ヤマト!」
「おお、コナン」
「そろそろショーの始まり、ですかね」
高遠の言葉通り、キッドは大きく「Ladies!and!Gentlemen!!」と声を上げた。
「さぁ、今宵の前夜祭。我が肢体が繰り出す奇跡をとくとご覧あれ」
そう告げたキッドは足を一歩踏み出した。コツン、という音がなって、キッドは宙を歩く。まるで、ガラスか何かの上を歩いているように。
俺は答えを求めるように、高遠を見た。コナンはキッドを追って、ビルを駆け下りていった。高遠は目を細めてキッドを見ていたが、何かに気づいたらしい。すぐに、なるほど、と小さい声を零して笑った。アキはというと、ずっとキッドの姿に魅入っているらしい。俺は答えを求めて高遠を見た。
「た、……遠山さん」
「落として見ますか?」
「え?」
「彼、落としてみますか?」
そういった高遠の手には薔薇である。但し、いつもの赤い薔薇ではなく、白いバラである。まぁ、赤い薔薇が写ってしまえば、勘のいい明智警視あたりが気づくだろう。
「アキの視線を奪われるのは、あまり嬉しくありませんからね。なに、一本くらいワイヤーを切っても、落ちはしませんよ。せいぜい、バランスを崩すぐらいでしょう」
「届くのか?」
「届かせますよ」
そう言って、高遠は白いバラを投げた。それは一直線にキッドに飛んでいき――キッドの上に差し掛かった。一瞬、バランスを崩したがすぐに立ち直ったキッドはコチラを見て顔をしかめ、下を見てまた顔をしかめた。高遠の投げた薔薇は花弁となって散る。
「さて、前夜祭はここまで。明晩20時に再び同じ場所でお会いしましょう」
そういって煙とともに消えたキッド。アキが小さく拍手をすると、高遠が不機嫌そうにそれをみた。