大海の奇跡04
――怪盗キッドへ告ぐ。
そうデカデカと書かれた新聞が日本中を駆け巡ったのは一昨日のことだ。こんな挑発のるかよ、と呆れていた俺だが、高遠は「乗るでしょうね」とコーヒー片手にいい、アキも「乗りそうですよね」とオムレツを俺の皿の上に乗せながら言う。そして、コナンからのメールでキッドが挑発に乗ったらしい、という話を聞き「犯罪者侮れねぇ」と思ったのは別の話である。
そんなこんなで、本日土曜日。俺は変装した高遠――というより、カラコンとダテメガネを装備し例の遠山となった高遠とアキとともに、園子嬢の待つ博物館あたりへとやってきた。顔を引っ張られたり、金属探知をされたり。大変だな、と隣にいる犯罪者を横目でみる。本人は涼しい顔をしているが。
「凄い警備の数だ」
「歩いてくる、といわれちゃ、そうするしかねぇんじゃねーの?」
「地面を歩くとは限らないでしょう?彼は月下の奇術師と謳われるほどのマジシャンなのですから」
「じゃあ、遠山さんならどうするんだよ」
「そうですね、空を歩く、かもしれませんね」
そう言って宙を見上げた高遠はどこか楽しげだ。コイツ、楽しんでやがる……!まぁ、一流のマジシャンでもあるのだから、トリックを見たいのだろう。
「あ、蘭ちゃん達がいました」
「あ!アキちゃん!」
片手を振ってかけていくアキの機嫌はそこぶるいい。高遠が帰ってきたからだろうけど。弟として複雑である。高遠はそんなアキを目を細めて見つめ、「可愛らしいですね」とか言うのだからコイツ大丈夫かと本気で思う。ゆっくりとアキに追いついた先で、高遠は毛利探偵にペコリと礼をした。
「お久しぶりです、毛利探偵、毛利さん、コナンくん」
「わー!お久しぶりです!遠山さん、日本に帰ってきてらしたんですね!」
「ええ、やはり、アキが心配で」
「でも、捕まったんじゃなかったか?」
「……と、いうのは口先だけでして。アキに会いたくて帰ってきたんですよ。長く離れていると私もですが、アキも辛いようですから」
にこり、と人のよい笑顔で告げた高遠に、アキは顔を赤くして慌てたように「と、遠山さん!」と声を上げた。毛利探偵が「お熱いこって」などと声を上げたのは仕方がない。コナンも生ぬるい目で高遠を見ている。
「らーん!アキちゃーん!」
聞こえてきた声に、俺達がそちらを向くと、サイドカーに園子嬢をのせて次郎吉さんがやってきた。園子嬢は犬――ルパンを抱えている。うらやましい。
「あれ、遠山さん!帰ってきてたんだ」
「お久しぶりですね、鈴木さん」
「遠山さん、紹介しますね、こちらは――」
「鈴木次郎吉さんではありませんか。人力飛行機世界一周おめでとうございます」
そう言ってあのマネージャー時の雰囲気をまとわせて、次郎吉さんに握手しにいった高遠。手にはしっかり手袋をしているあたり、抜け目ねぇなとかおもう。そして、握手に応じる次郎吉さんもだ。
「次郎吉おじさま、こちらはアキちゃんのボディーガードで恋人の遠山遙治さん」
「遠山です。ご活躍はいつも耳にしています」
「うむ!」
「で、こちらのちょびひげのおじさんが蘭のパパの眠りの小五郎さんよ!」
ちょびひげ、確かにちょびヒゲだよな。そう思いながら毛利さんを見上げていれば、警察が近づいてきて次郎吉さんの肩に手をおいた。
「あんたか!?こんな騒ぎを巻き起こした張本人は!」
高遠がさりげなく距離をとる。ソレと同時に、アキが高遠を庇うように警察――確か、中森警部の前にたつ。
「あんたんトコのヘリをどうにかしろ!邪魔で警察のヘリが飛べないだろーが!」
「警察のヘリなんぞいらんじゃろ?キッドは歩いてくると予告しておるんじゃから!」
「じゃあ、なんでアンタは飛ばしてんだ!?」
「あれは儂の自伝用の撮影ヘリじゃよ」
そう言った次郎吉さんに、高遠はヘリではなくビルを見上げた。
「鈴木さん、」
「なんじゃ?」
「ビルの上に人は配置されていますか?」
「いいや、しとらんよ。キッドは歩いてくるんじゃからな」
「そう、ですか」
高遠はどこか不敵な笑みを浮かべて次郎吉さんに目を移す。
「ビルの屋上からこの騒動をのぞいても?」
「かまわんよ!遠山さん、アンタも物好きじゃな!」
そういって豪快に笑った次郎吉さん。アキも高遠についていくようだ。俺も高遠についていくとしよう。
「コナンはどうする?」
「ビルの上だろ?キッドは歩いてくるんだし……」
「『地面を歩いて』とは書かれてなかったろ」
「あ……」
「遠山さん、ああ見えてアキよりマジック上手いからな。俺はとりあえず、遠山さんについていくけど」
「……なにかわかったら探偵バッチで知らせてくれ」
「了解」
そう言ってコナンと別れて歩き出す。目星をつけているのか、高遠はアキと俺の手を引いてすいすいと人混みの中を通って行った。