黒の奇術師、昼間の逢瀬


 最近出来た友人。マジック修行中だという彼女は、プロに匹敵するレベルでマジックが上手い。俺も油断できねーな、と思いながら、彼女との待ち合わせ場所に行けば、彼女はもう来ていた。ベンチに座る彼女は制服を着ていて、どこか新鮮な気持ちになる。
 たしか、この前、キッドとして大海の奇跡を狙った時も彼女はいたっけな。俺がいた反対側のビルに。あのときは凄い焦ったが、最後にちらりと彼女を見れば小さく拍手していたのでそれで満足である。
 ――となりにいた男は、あまり、いい感じがしなかったけど。

「よっ!早いな!アキ」
「快斗くんも早いね」

 そういって微笑んだ彼女に、コチラも笑みを浮かべる。

「その制服、みたことねーな。何処の高校?ココらへんじゃないだろ?」
「不動高校です。去年まで不動市に住んでたからそのまま通ってるの」
「へぇ、不動市か〜。行ったことないなぁ」
「ふふ、わたしのお師匠様は、そこで大道芸やってるけどね」
「アキの師匠って……この前、チラッと見たんだけど、身長高くて黒縁メガネかけたやつ?」
「見られたかぁ」
「おう、」
「彼ね、恋人でもあるの」

 ふにゃり、と笑った彼女はどこか恥ずかしげだ。なるほど、綺麗な子はさすがに彼氏持ちかとすこし落ち込む。あの、隣にいた男――俺に向かって薔薇を投げ、ワイヤーを一本切った男が恋人で師匠なのか。

「快斗くん?」
「ん?」
「顔、しかめてたから、どうしたのかなって」
「しかめてたか?」
「うん。あ、そういえば、この前キッドを見たよ」

 そう言った彼女は、キッドは凄い、と褒め、俺もそうだろそうだろ?と便乗する。マジシャン仲間に褒められて、悪い気はしないからだ。青子なんかちっとも褒めることはない。素直に褒められて嬉しいと、彼女の話に相槌をうつ。

「――でも、私は彼とはあいまれないんだろうな」

 不意にポツリとアキが零した言葉に、俺は首をかしげる。

「どうしてだよ?」
「彼が、真っ白だから」

 そう言った彼女に、俺はまた首を傾げた。なんでもない、と言って違う話題に移った彼女。一瞬だけ、彼女が嗤った気がしたが、気のせいだったのだろうか。

「けど、まぁ、弟がキッドに会ってみたいって言ってたし、また予告状出たら行こうかな」
「アキって弟いるのか?」
「うん、小学生のね」
「小学生?」
「一年生で、頭がいいの」

 その言葉に、あの名探偵が浮かんだが違うだろう。アイツには「蘭」という幼なじみというか、姉というのかややこしい位置のなかなか可愛い彼女がいる。なら、と考えを巡らす。この前、ちょろちょろ名探偵と動いていた子供も、目が青かったような。
 そこからまた話がマジシャンの話に変わる。俺のおやじのマジックがどう、だとか、この前事件になっていた魔術団の「生きたマリオネット」は近宮玲子のトリックのパクリだとか。

「――アキ、昼間からどうどうと浮気ですか?」

 不意に聞こえた声に、アキと俺はそちらを見る。そこには、言ってしまえば、俺とは――怪盗キッドとは対の黒に身を包んだ男がいた。あの、薔薇を投げた男だ。近くで見ても、掴めそうな感じではない。有名なマジシャン特有のそれというか、手の内を見せない雰囲気というか。その雰囲気でさえも、怪盗キッドが白ならば、男は黒い。

「遠山さん、浮気ではありませんよ。彼はお友達です」
「大丈夫だって、彼氏持ちは手を出さないから!」
「そういう問題?」
「おう」
「でも、どうしたんですか?遠山さん」
「やはり、忘れていたんですね。散々貴女が行きたいといっていたのに」

 そう言った男の手には映画のチケットである。アキは、小さく「あ、」と声を上げて、俺を見た。どうやら先約が会ったのに忘れてしまっていたらしい。俺はそっちを優先しろよ、と彼女を送り出す。彼女は申し訳無さそうに、ごめんね、と謝って、男の隣に並んだ。

「またね、快斗くん」
「おう、また連絡する!」
「――では、失礼します」

 ぞくり。
 なんとも言えない嫌な感覚が体を駆け巡る。男が不敵に笑っただけだというのに、蛇に睨まれた蛙のような感覚がした。いや、品定めされているような感覚とも言える。仲よさげに背を向けて歩き出した二人に、ほっと息を吐いた。――俺が白なら、アイツは黒だ。まちがいなく。なら、アキは――。

「――師匠がそうだから、そうなるわけでもねぇか」

 そう自ら納得して、立ち上がる。気分転換にアイスでも食べることにしよう。