Hidden Corpse03


 男性が図書館に入って少し時間がたった。私と高遠さんはもう一度図書館まで不自然ではないようにやってくる。
 図書館の入り口がご丁寧に閉まっているし、正面からは入れば怪しまれるだろうと、非常口から入ることにした。もちろん鍵は閉まっていたが、高遠さんがピッキングで開けてしまった。
 閉館している図書館は、何処か不気味な印象を受ける。人が隠れられそうな場所に、二人でとりあえず移動し身を隠した。

「今日、ヤマト君は携帯を?」
「いえ、持っていってません。少年探偵団の面々も持っていないと思います。持っていれば、誰かの携帯から連絡が来るでしょうから」
「そうですか、では、やはりあの部屋に行くしかありませんね。エレベーターは危険ですし……階段もあの男と鉢合わせする可能性がありますね。まぁ、一か八かの勝負です。階段で――」

 不意に高遠さんが言葉をきる。そして、私を庇うようにして息をひそめた。いきなりのそれに驚いていると、目の前を例の男が通っていく。男は何かをしているのか、パチン、と、何かをきる音が聞こえた。それを終えると、男の足音が遠ざかっていく。ふぅ、と息を吐き、高遠さんは小さな声で「もういいでしょう」と私を離した。

「あの男の人は何を?」
「公衆電話の電話線を切っていました。ヤマト君たちが外部と接触できないように、でしょうね。小さなクローズドサークルの出来上がりですね。不完全ですが。さて、ヤマト君たちの元に――」

 また高遠さんの言葉が切れる。聞こえてきたのは複数人の足音と、喋り声だ。ヤマトの声も聞こえる。どうやら、少年探偵団が一階へ降りてきたらしい。

「こちらが行く前に、向こうから来てくれました、が。相手の裏を書きましょうか」
「裏を?」
「ヤマト君たちが何を調べていたか、気になりますからね」

 ヤマト達が私たちに気づかずに通り過ぎていく。それを見送って、私たちは足音を消して階段を登った。


 恐らく、ヤマト達がいたであろう部屋につく。児童文学の本のエリアだ。
 ふと、一部の棚の本が綺麗に整頓されているのが目についた。他のものは、乱雑なのに対し、そこだけは何処か綺麗に整頓されていて、歪に感じる。近づいて一冊取ってみたが、何も変なところはない。覗いてみても、向こうの本が見えるだけだ。

「何かありましたか? アキ?」
「いえ、この棚だけ綺麗に整頓されていたので不思議に思って」
「こちらも変なものがありましたよ」

 ほら、と手袋をつけた高遠さんが見せたのは本のケースである。段ボールいっぱいにあるのは確かに不思議だ。本来なら本のケースと本は一緒にあるべきである。

「その本を何処かにしまったんでしょうか」
「おそらくは。でも、ヤマト君たちとの接点がわかりませんね」

 ケースを段ボールになおして高遠さんが肩を竦めた。私の隣に並ぶと、私と同じように一冊手に取る。
 奥にはやはり、向こう側の本の開きの部分だ。高遠さんは本を眺めて、何か思いついたのか向こう側へ回った。

「アキ、そちらの一番右上の本は取っていますよね?」
「はい、今手に取ってます」

 すっと高遠さんの指が見えて、本が抜き取られる。なるほど、と高遠さんがこぼした言葉に私は高遠さんの方へと向かった。高遠さんの手には二冊の本があった。しかし、棚をどう見ても一冊分の隙間しかない。よく見れば、一冊は背表紙がないのだ。

「高遠さん、それは……?」
「この本の奥にありました。アキの手にある本とこの本の間、でしょう。面白いトリックです。子供ならまずわからない」
「あ、そっか。同じ大きさの本が二冊であれば、こんな棚のふちギリギリまで背表紙はきませんね」
「ええ」

 高遠さんは背表紙のない本をパカリと開ける。どうやら何かのケースだったらしい。本には白い何かが詰められていた。

「粉、ですか?」
「隠すべき粉、といえば、一つだけですね」
「麻薬?」
「おそらくは。あの男がこれに絡んでいるなら厄介だ。麻薬のバイヤーほど、タチの悪いものはない」
「なら、ヤマトと――」

 高遠さんにぐっと口元を覆われる。聞こえてきた足音に、私は息を飲んだ。しかし、聞こえてきたのは紛れも無い会話で。少し、ホッとしたのはきっと、仕方がない。