とある少女と黒の奇術師


「おや、君は」

 偶然だ。少女が歩いていると、遠山遙治に出会った。小さなアタッシュケースを持つ彼は、少女を見て首をひねる。

「ヤマトくんのお友達ですね。確か、名前は……灰原さん、でしたか?」
「そういう貴方は遠山さんね」
「ええ、正解です」

 クスリ、と笑った遠山に、少女はあの記事を思い出す。目の前の男の瞳は、緑色だ。しかし、先日の図書館の事件では黄色かった。
 光の関係でそう見える人もいるし、そうなのかしら。
 じっと遠山の目を見つめた少女に、遠山は首を傾げて見せた。

「なにか?」
「いえ、何処かに出かけてたんですか?」
「――ええ、少し。大きなマジックショーの仕掛けを、ね」

 クスリ、と笑った遠山に何か冷たいものを感じ、無意識に一歩下がる。しかし、また、どうしました?と尋ねた彼は少女が知っている雰囲気の遠山だ。
そういえば、だ。この男は、あの事件の時、やたらめったら殺人について詳しかった気がする。あろうことか、死んだ人間は硬いから、細かくバラバラにするなんて無理だ、と言っていたのだ。もしかして、という考えがまた蘇り、少女は口を開く。

「貴方は、高遠遙一に似てるわね」

 その言葉に、遠山は一瞬目を細めたが、息を吐いて少女の頭を撫でた。

「よく、言われます」

 その返答に、少女は安堵する。よく言われるだけで、違うのだろう、と踏んだからだ。

「貴女の目は、とても暗い目をしていますね。復讐をするなら、手をお貸ししますよ」
「――え?」
「――なんてね、冗談です。僕は遠山遙治ですよ」
「灰原、と、なんで遠山さんがいんだよ」

 やってきた少年に、少女は軽く息を吐いた。少年は、遠山を見てムッとした表情をしてみせる。

「偶然あっただけですよ、ね?」
「ええ」
「そういう君は灰原さんとデートですか。アキにいっておきましょう」
「デートじゃねーよ!」

 二人のやりとりに、少女はやはり違うのだ、といきをはく。凶悪な殺人犯が、この正義感の強い少年とこんな会話をすることはないだろうと。

「どっかいってたのか?」
「ええ、少しショーの準備をね」
「ショーだって?」
「ええ」

 眉を上げた少年の言葉に、遠山は頷く。

「アキには言いましたが、また家を離れることが多くなります」

 その一言に、少年はピクリと反応した。小さく呟いた言葉は、少女にも遠山にも聞かれることなく消えていく。遠山はその反応に、くつりとわらった。

「では、GOODLUCK、小さな探偵さん。またすぐにお会いしましょう」

 ――その日の夜のことである。捕まっている高遠遙一が、牢屋に「GOODLUCK」とメッセージを残して消えたのは。