蝋人形城殺人事件01


「聞いてない」
「いい加減機嫌なおせって。なんだよ、ヤマトは俺が参加するのがそんなに嫌なのか?」
「お前はその死神体質を直すべきだっての! この事件ホイホイめ!」
「はぁ!?」
「すいません、明智さん。ヤマトったら、今日を楽しみにしてたみたいで」
「いえ、金田一くんがいる事を事前に告げなかった私も悪いですから、アキさんはお気にせず」

 わぁわぁと騒ぐ俺と金田一、それを宥める美雪さんを無視するように前の席からは落ち着いた話し声が聞こえる。車で古城に向かってるなう、である。今は明智警視運転する車の後部座席だ。明智警視が運転し、助手席にアキが座っている。
 なぜ、俺がこんなにも金田一と言い合ってるのかというと、俺は楽しみにしていたのだ。明智警視との旅行なら、事件は起きないだろうって。すくなくとも、フラグは立つかもしれないが、明智警視だし、事件が起こる確率が低い。ただし、金田一が一度加われば、殺人事件フラグ(しかも多くが連続殺人)は強固なものになって立ちふさがる。本気でかんべんしてほしい。アキから「はじめちゃんの進級が危うい」って聞いてたし、この連休は追試まみれだろうから、誘いがあっても参加しないって計算していたのに。

「あー、もう、最近、事件事件事件事件。事件ばっか」

 そう告げて背もたれにもたれかかれば、美雪さんが金田一越しにこちらを見る。

「ヤマトくんの気持ち、すっごーくわかるわ。はじめちゃんと外出した先で事件ばっかなんだもの」
「おいおい、美雪までなんだよ。つーか、ヤマト、お前の事件はアレだろ。誰それちゃんのパンツ盗まれたーとかだろ」
「そんな事件、今時の小学生は誰もおこさねーよ」
「私達がヤマトくんぐらいのときも、はじめちゃんしか起こしてなかったわよ」
「たしかにね。……ヤマトは、最近殺人事件に巻き込まれてるみたいで」

 バックミラー越しに、アキが苦笑いして金田一たちを見る。この前も米花の図書館の事件に巻き込まれてた、といったアキに、明智警視が「ああ、あの事件ですか」と口を開いた。

「子供からの通報で発覚した、と米花署の刑事から聞きましたが、ヤマトくんのことだったんですね」
「正しくは、ヤマトがお友達と組んでる少年探偵団なんですけど」
「少年探偵団!」
「少年探偵団〜?」

 アキの言葉に、「まるで小説みたいね!」と美雪さんは顔を輝かせ、金田一が胡散臭そうに俺を見た。正反対の反応である。

「少年探偵団として出かけるところでよく事件が起こるようで」
「ふん、お前も人のこと言えねーじゃねーか。し・に・が・み・く・ん?」
「俺が事件を引いてるんじゃねーの。コナンっつー死神体質が事件起こると勝手に首突っ込むの」

 む、としたままそう告げれば、明智警視が「警察は何してるんでしょうか」とため息をついた。金田一も少し顔をしかめる。まぁ、当然の反応であるし、明智警視の言うことは全くだ。なんで小学生に現場をうろちょろさせてるのか。なんで米花には明智警視とか剣持のおっさんみたいな刑事がいないんだろうか。いや、最初はアレだったけど、推理が的確すぎて許容してるのか。……最近、コナンだけじゃなく俺も許容されてる気がするのは気のせいではない。

「あ、あれですね。バルト城は」

 ふいに話題を切ったアキの視線の先には、洋風の城があった。ドイツからそのまま移築されたバルト城である。
 ドイツで有名な城といえば、シンデレラ城――もしくはスリーピング・ビューティーにでてくる城――のモデルとなったノイシュバンシュタイン城だが、この城はどちらかといえば、美女と野獣にでてくる城に見える。もちろん、魔法が解ける前のだ。きれーい! と騒ぐ美雪さんに、明智警視が口を開く。

「ええ。でも、地元の人はバルト城何て呼ばないんです」
「じゃあ、なんて呼ぶんだ?」

 首をかしげる俺に、明智警視がちらりと城を見て口を開いた。

「こう呼ばれています。死霊の棲み処――蝋人形城」

 その言葉にもう一度窓から城を見るお化け屋敷のようだと感じたのはしかたがないだろう。