蝋人形城殺人事件02
「バルト城。確か、中世ドイツの街を再現したテーマパークを開く計画で移築されたんですよね?」
「ええ、流石アキさんですね。その為に移築されましたが、その後、テーマパークの開発会社の倒産で計画は頓挫――。信州の山奥にこんな不釣り合いな城だけが残ってしまったわけです」
「それにしても、 どうしてこんな何もない場所でミステリーナイトなんか……」
「あら! ミステリーの舞台としては最高じゃない!」
「ふふ、そうだね。それに、優勝者はこの城の当主になれるらしいし、みなさんはりきりそうだけど」
「あ、あの城がミステリーナイトの賞品!?」
アキの言葉に、金田一が体を乗り出す。その瞬間である。明智警視が急ブレーキを駆けたのは。俺はシートベルトをしていたから何もなかったけど、金田一は思いっきり前の座席にまで身を乗り出した。ゆっくりと起き上がった金田一に怪我はなさそうである。
「な、なんだよ〜! 明智サン!! いきなしブレーキかけて〜〜!」
「シートベルトをしてない金田一が悪い」
「うるせぇ!」
「今、前に人影が――」
明智警視の言葉に、俺も前を見る。誰も居ないようである。
「誰も居ないじゃん! ったく、なにか見間違えたんじゃないの〜?」
「いえ、私も見ましたよ?」
金田一の言葉にアキが首を傾げる。美雪さんが金田一の方を見て口を開いた。
「は、はじめちゃん! 後ろ!!」
窓側にぬっと、現れた女性に、金田一がぎゃあ! と叫んで俺に飛びついてきた。金田一の後ろには金髪の女性がいた。西洋系の顔立ちである。アキが冷静に窓を開ければ、女性はアキの窓の方へ行く。そして、アキは口を開く。
「May I help you?」
「yes. I want to go to the castle. would you ride me this car?」
「だ、そうですよ。明智さん」
「構いませんが、ヤマトくんには少し窮屈な目に合わしてしまいますね」
「私の膝の上に乗せますよ?」
「それでは、安全運転はまかせてください」
明智警視の言葉に、俺はとりあえず後部座席から降りて女性に乗るように促す。そんな俺に、女性は微笑み、片言の日本語で「アリガトウ」と告げた。女性の手には、ツアーの招待状が握られている。どうやら彼女もツアーに参加する予定らしい。俺はそのままアキの膝の上に乗れば、金田一から恨めしげな視線を向けられる。お前には美雪さんがいるだろ。そして、「ヤマトめ、羨ましい」と言葉を吐いた金田一に、美雪さんが「ヤマトくんはまだ小学校一年生よ!」と怒っている。はやくくっつけばいいのに。リア充爆発しろ。むしろ、金田一爆発しろ。
まだ恨めしげな発言をしてくる金田一に呆れた目をむけてから、バックミラー越しに女性をみる。うーん、美人だ。まるでお伽話に出てきそうなソレである。バックミラー越しに目があって、ニコリと笑われてしまった。アキがそれに気づいて、俺を見下ろした。
「綺麗な方ですね。まるで人形みたいだ」
「英語が通じるってことは、英語圏?」
「いえ、訛りが入っているようですから、他の言語圏だと思いますよ」
アキがにこりと笑う。それを聞いて明智警視が「鋭いですね」と告げた。