蝋人形城殺人事件04



「ここより先は城内が暗くなっております。皆様、足元にお気をつけ下さい」

 南山さんの忠告通り、先は暗くなっている。しばらく進んでいると、美雪さんが何かを見つけたようで「あら!?」と声を出した。

「どうした? 美雪」
「ここ……この部分だけ、四角く盛り上がってるわ。亀裂でも入ってたのかしら?」

 美雪さんの言葉に、俺もそれをみる。アキが上を見ていたので俺も上を見れば、何かの跡がある。なるほど。

「漆喰の壁にこんな形で亀裂は入らないわ。それは明らかに人為的なもの。色の感じからして、つい最近塗り込めたものだわ」
「あの人、推理小説家の多岐川かほるよ! 双子姉妹探偵とかで有名な……」

 美雪さんの言葉に、金田一が失礼なことを言ったので足を踏んでおく。睨まれたが無視である。

「ひょっとしたら、肢体を埋めた跡かもしれないわねぇ」
「死体ねぇ? はっはっは! さすがは売れっ子推理小説家さん。発想が突拍子もない!」
「おや、どうしてそう言えるのですか? 誰もこの城がどうしていたかも知らないのに」

 評論家の坂東さんの言葉に、アキが肩をすくめる。「まぁ、でも、死体を埋めた跡ではないでしょうが」とつぶやいた。それを聞いた外国人(若い方)が「その通り」といった。

「いやぁ、ウチのオバサンがね! そりゃあもう、部屋の模様替えが大好きでして!」

 なんだ、この喋り方。聞いたことあるぞ。と、思っていれば名前を聞いて納得した。なるほど。コロンボか。というか、この世界アメリカ行ったらあの有名なコロンボいるのか。なにそれ会いたい。まぁ、コロンボの話を要約すると「ここ電気のスイッチだっただろ」ということである。

「電灯なんて何処にもないわよ!」
「あったんですよ! この少年と彼女の視線で僕も気づいたんですが、ほら、あそこに何かついてたあとがあるでしょう?」

 そう指さした先には、俺達が見上げていた場所である。すごい、と感心した美雪さんに金田一が別の観点から口を開く。出っ張りの周りについた黒い手垢。暗闇の中多くの人が手探りで探すもの。うん、確かに電気のスイッチである。それにかぶせるように明智警視が口を開く。消防法、と言われた瞬間、なるほど! と納得した。確かに、テーマパークなわけだし、ロウソクやランプは危険である。電気がないとおかしい。

「でも、なんでついてた電灯を取ったんだ?」

 首を傾げてみる。アキがそうせざる負えない何かがあったんでしょうね、とつぶやいた。

「あながち、ヤマトの予感はあたりかもしれませんよ」

 そう言ってアキはぐるりと回りを見渡す。予感が当たる、とは、殺人事件が起こる、ということなんだろうか? 予感であってほしい。

「皆様、時間の都合もございます。先に参りましょう」

 そう告げて進みだす南山さんの後に続く。廊下は階段になった。

「コレより皆様に見ていただくのは『魔女狩りの間』です」
「魔女狩りの間?」
「はい、中世ドイツの資料展示の一つとして、城の地下に作られたものです」
「魔女狩りって?」
「今から300年前。17世紀ヨーロッパで行われた異教徒弾圧のことよ」

 金田一の問に、40代ぐらいの女性――当麻さんが答える。正しくは、15世紀以降、全ヨーロッパで行われたそれである。20世紀でもアフリカとか、インドとかでは迫害があるとかないとか。有名なのは、アメリカで起こったセイラム魔女裁判とかがある。まぁ、俺は魔女がいた云々という話は集団ヒステリーによるものじゃないかとか思っているけど。
 探偵社の社長である当麻さんに絡まれる金田一を横目に、アキや怪盗キッドも時代が違えば魔女とか魔法使いだったんだろうか、と考えてみる。うーん、じゃあ、魔女裁判も他人ごとじゃないように感じるな、なんて。

「ここが魔女狩りの間でございます」

 そう告げた南山さんが扉を開いた。中には柱に吊るされている人やギロチンに駆けられている女性などの蝋人形がある。これは引く。これじゃタダの拷問展示室である。顔をしかめながら、周りを見ていれば、アキがギロチンの一つを見つめているのがわかった。なんだろう、と近づいてみれば、それだけ現代風の服を着ている。恐らく男である。ぐるり、と回転した首に、ビクリと肩を跳ねさせる。そして目を開いた男に後ろにいた金田一と美雪さんが叫びを上げた。

「よくこの状態で、鍵を閉めれましたね」
「アキ、着眼点違う。驚く場所だと思う」
「意外と締めれたぜ? 手を固定するわけじゃないしな! いや〜、すまんすまん! 俺は人間だよ!」

 アキがギロチンの鍵を開け男のみを自由にすれば、男は立ち上げる。驚かそうと思ってさ、と告げた男に、あんまり動き回んなと、とジト目で見てしまったのは仕方がない。真木目さんというらしい。ミステリーナイトの参加者だとか。アキは今度は違うものが目に入ったらしく、そちらへ向かった。俺もそれに続く。棺桶のような、マトリョーシカのようなそれである。

「なにこれ」
「さぁ……? でも、異質な感じがしますね」
「コレは鉄の処女、と言われる拷問具ですよ。中には無数の針があるんです、外観は聖マリアをかたどっていると言われています。脱出マジックにはオススメしませんよ」

 明智警視の言葉に、アキが苦笑いをする。どうやらそっち方面で考えていたようである。中を少し開けてみれば、無数の長い針が見えた。いや、針というか釘のようなソレだけども。こんなものを飾るとは、この屋敷の主の趣味を疑いたい。