蝋人形城殺人事件07
夜中のことだ。いきなり聞こえてきた悲鳴に、ビクリと体を起き上がらせる。傍で本を読んでいたアキが「美雪ちゃんの声です」と立ち上がるのを見て俺も立ち上がる。そのままふたりで悲鳴が聞こえてきた方へ行けば、なんだなんだと人が集まっていた。遊戯室を除けば、誰かがビリヤード台に持たれて死んでいる。当麻さん――によく似たあの蝋人形だ。殺人がおこったかと思った。そう安堵の溜息を吐いて、固まる。あれ、なんか、知ってる気がするぞ。この流れ。
「皆さん、さぞ驚かれたことと思う――。さて、これからがミステリーナイトの問題だ。当麻恵の死体をよく検分し犯人を割り出してほしい。健闘を祈る」
聞こえてきた声に、なにかが引っかかるがおもいだせない。怪盗キッドとか高遠関連なら覚えてんのに。
とりあえず、動かない周りをおいて人形に近づく。背中を一刺しである。抵抗したようなそぶりはない(まぁ、人形だからだけど)から、意識がなかったのか。手にはなにか持っている。ビリヤードの球だ。美雪さんも気づいたようで、美雪さんの呟きで周りがそれに気づいたらしい。
「コイツが犯人を示す『死者のメッセージ』、ダイニングメッセージってわけか」
「ダイニングじゃなくて、dyingな。それじゃご飯のお誘いみたいになる」
「そうね、ダイニングじゃ明日の食事の時間を示してるようだわ」
「む」
「坂東さん、あなたミステリー評論家ならこれくらい知っときなさいよ。子供に指摘されるなんて恥ずかしいわよ」
「ちょっと言い間違えただけだ」
人形が持っている球は、9と3……? いや、9番はこの色じゃなかったはずである。確か、黄色だ。テーブルにあるボールをみれば、黄色のボールはない。テーブルをぐるりと回ってみれば、ポケットに黄色の9番が入っていた。
――あの数字が犯人を示すとして。
6と3はともかく、9と3が示す人とすれば坂東さんしかいない。名前が九三郎だったはずである。だが、犯人は坂東さんに濡れ衣をかけようとしたと見たほうが良さそうだ。
「と、なると」
9と6が区別できない人物。即ち、ビリヤードに参加していない人物。その存在に、乾いた笑いを浮かべたのは仕方がない。アキも苦笑いをして金田一を見ていた。参加者が唸る中、その存在――金田一に近づいて、服を引っ張りかがませる。「なんだよ」といった金田一に耳打ちをした。
「なぁ、あの数字って何番と何番に見える?」
「……9と3」
「ハイ、ダウトー。犯人はお前だ」
ぴくりと固まった金田一を無視して、俺はアキの隣に行く。
「俺、なんでこんなことを! っていう役したい」
「じゃあ、私はかたを抱いて、連行する役をしますね。詳しい話は署で伺います的な感じで。しかし、これは面白いですね。文化祭でこういうことができれば、なかなか面白そうです」
「謎解きゲームみたいなかんじ?」
「ええ」
それは面白そうである。そんな話をしていれば、明智警視が謎を解き明かし、金田一を追い詰め始める。今か今かと思っていれば、金田一が脳天気ヅラで「まさしく犯人はこのワタシだよ!」といった。おい、もうちょっとまじめにやれよ。俺が考えた「なんでこんなことを!」ってできないだろ。白けた周りに、俺も呆れた目で金田一を見る。アキはクスリと笑うと、金田一を見た。
「で、どうして、はじめちゃんがこんなことを?」
「俺の部屋に指示の手紙があってさ! 俺は指示通りやったまでだよ!」
金田一曰く、全部指示通り。レッドラム曰く、ウォーミングアップ。まぁ、確かに簡単な問題だった。いや、コナンと出来わす事件とか、高遠が仕掛ける事件の難易度がおかしいだけだろうけど。
「……本物の当麻さんは?」
コテン、と首を傾げたアキに、周りははっとした。それを南山さんが、「お部屋で待機されていますよ」と答える。
アンダーソンさんの提案で、全員で当麻産の部屋へ行くことになった。
――なんか、やっぱり、知ってる気がする。そして、嫌な予感がする。
たどり着いた部屋で、アンダーソンさんがノックをするが、当麻さんは現れない。これは、おかしい。ゆっくりと俺が扉を開ければ、そこには、蝋人形と同じポーズで死んでいる当麻さんがいた。