蝋人形城殺人事件09



「はじめちゃんは、シャイニングという映画を知ってる?」

 不意に、アキがそう金田一に訪ねたのは、南山さんが迎えが三日後、金田一が、犯人がこの中にいるかもしれない、と告げた時である。

「シャイニング? なんだそれ」
「あ……そういうことでしたか。通りでどこかで聞いたことがあるはずだ」

 首を傾げた金田一に対し、コロンボさんがポンっと手を叩いた。

「昔のホラー映画ね」
「ええ。亡霊にとりつかれた男が家族を殺そうとする話なんですが――」

 アキが何処からかペンを取り出すと、南山さんに「ここに書いてもいいですか?」と確認をする。困ったように頷いた南山さんに、アキは笑みを浮かべて礼を言うと、テーブルクロスに文字を書いた。

「その中にレッドラムと言う名前が出てくるんです。R・E・D・R・U・M。コレを逆にすると――」
「Marder!? 殺人!」
「はい。不安を煽るようですが、参加者を選んだのは恐らく、Mr,レッドラムでしょう。クローズドサークルに仕立てあげたのも、レッドラムですし、恐らく現段階、全ては彼ないしは彼女の計画通りことが進んでいます。一人を殺すのならば、別にクローズド・サークルに仕立て上げることはない」
「なによ、貴女は、殺人が続くって言いたいの?!」
「可能性の話です。顔見知りがいる人は気をつけたほうがいいかもしれません。この中の誰がレッドラムかわからない以上は」

 アキの言葉に、坂東さんの顔色が青くなった。
 ――顔見知り、といっても、建前上の顔見知りは俺とアキ、金田一、美雪さん、明智警視だけのはずである。なのに、どうして坂東さんとアンダーソンさんはビビっているのだろうか。

「南山さんはなんか知らないのか?」
「そ、それが、私もレッドラム様にあったことがなかったので……」
「デタラメを言ってるんじゃないのか!」
「そんな!」
「アンダーソンさんって、心理学の人なんだよな?」
「ええ、小さな探偵サン、任せてクダサーイ!」

 俺が話を振ると、アンダーソンさんが南山さんに問いかけ始める。ほとんどが忘れているみたいだが、まぁ、誰も殺人が起こるとはおもっていないだろう。アンダーソンさんによると、人がウソを付く際はよどみなくスラスラ答えるらしい。「思い出せない、忘れた」というのは本当のことを言っている証なんだとか。なるほど、勉強になる。

「――さて、夜も遅いですし、ヤマトは寝たほうがいいでしょう」

 そう切り出したアキに、俺はそういえば夜中だったな、と時計を見る。うん、夜中である。自然と出たあくびに、目をこする。子供の仕草がすっかり身についているようだ。まぁ、いいんだけど。明智警視が「それもそうですね……」と俺を抱き上げ……抱き上げた!?

「ちょ、明智警視!?」
「君があまりにも眠たそうだったので」

 そう告げた明智警視に、アキはありがとうございます、と笑った。どうやらそこで解散になったらしい。俺は明智警視に連れられたまま、廊下を進んでいく。

「アキさん、」
「はい、なんでしょう」
「最近、高遠は貴女のもとに現れましたか?」

 そう訪ねた明智警視に、アキは首を振った。そういえば、高遠を最近は見ていない。正確には、剣持警部が『高遠が脱獄した』と俺達に知らせたぐらいから会っていない。違う人物を投獄させていたとは聞いていたが、どうやってその人物を脱獄させたんだ、アイツ。

「いいえ、」
「そうですか……ビリヤードは彼に?」
「はい、ああ、でも、小さいころに、ですよ。小さい頃は彼にひっついてましたから」

 そう苦笑いを零したアキに、明智警視はアキを見た。

「マジックも彼に教わりましたし、勉強だって教わりました、後、ピアノも、リバーシも、いろいろ……――近宮さんが死ななければ、彼はきっと素晴らしいマジシャンになってたんでしょうね」

 ぽつり、と呟いたアキに、明智警視は「――ええ、本当に」と答える。

「アキさん、高遠は貴女を手に掛けることはないでしょう。しかし、貴女を引き込む可能性は十分にある」
「――引き込む? 何に?」
「同じ殺人者に、共犯者に。大丈夫だと思いますが、気をつけてください。本当にあの小説――飯塚龍一の短篇集の姉弟のように、『平行線』になってしまわないように」
「大丈夫ですよ、私とヤマトは平行線になったりはしません」
「そうだぜ、明智警視。アキは人を救う職業につきたいって言ってたし」
「その言葉を聞いて安心しました」

 本気でホッと息を吐いた明智警視は、この部屋ですね、と俺を下ろす。ありがとうございます、とアキが礼を言うと、「いつでも部下としてお待ちしてますよ」と明智警視が告げる。アキは苦笑いして「考えておきます」と告げた。部屋にはいると鍵を締める。ベッドの上に寝転べば、睡魔が襲ってきた。うとうととしていれば、アキが俺に布団をかけるのがわかる。

「――おやすみなさい、ヤマト」

 その言葉とともに、俺は眠りについた。